第七十六話:強欲魔王 VS ポンジ・スキーム! “空気コイン”って知ってるか?
(場所:深淵診療所・VIP会議室)
暴食と色欲が立て続けに“転職”した噂は、ついに地獄の財布を揺らした。強欲魔王・マモンが直々に来訪する。背は低く、眼だけが妙に鋭い小男。十本の指に魔法指輪をぎっしり嵌めた老人だ。
軍隊は連れていない。代わりに“本物の金山”を持ち込み、会議室へ積み上げた。床が抜けそうだ。
「リン院長」
マモンは金貨の山を撫で、金光に目を眩ませながら言う。「ここに百億ゴールド。現物。純度99.9%」
「君の診療所を買収したい。――職員も、施設も、全部だ。値を付けろ。買えないものはこの世にない」
金山に、背後のCFO(キン歯のデブ)は呼吸が荒くなり、目玉が飛び出しそうだった。だがリンは、ちらりと見ただけで、むしろ鼻をつまむ。
「黄金? マモン氏。まだそんな“原始通貨”で遊んでいるのか」
「……何だと?」
マモンが固まる。リンは眼鏡を押し上げ、“ウォール街の狼”が“田舎の成金”を見るような目をした。
「この時代、実物資産は目減りが早い。頂点の資本が弄ぶのは、“仮想経済”と“概念”だ」
「仮想? 概念?」
マモンは分からない。だが嗅覚だけは鋭い。大儲けの匂いに、喉が鳴る。
「アリス。新プロジェクトを見せてやれ」
指を鳴らす。ホログラムが開き、色彩の洪水のようなデータ世界が現れた。【深淵メタバース(Abyss Metaverse)】。リンは、光る“仮想土地”を指差す。
「ここだ。触れない。掴めない。――だが“唯一無二”だ。我々は数量限定の【深淵NFT(非代替トークン)】を発行した。各区画は唯一の魂コードに紐づく。今買えば、将来の上昇余地は一万倍。――この仮想の石ころ一つで、君の金山百個と交換できる」
「い……一万倍!?」
マモンの呼吸が止まった。金持ちほど、“儲け損ねる恐怖”に弱い。“金が金を産む”という概念が、強欲の防壁を貫通した。
「だが……見えないし、触れない……」
「それが“希少性”だ!」
リンは声を張って畳みかける。「ほら、龍王がもう百区画買った(※実は私が贈った)。エルフ女王も買った。君が今買わなければ、後で入場券すら手に入らない」
「買う! 全部だ!!」
マモンは理性を失った。これは【ため込み症】+【ギャンブラー心理】の典型。彼は手を振り、金山に加え、空間指輪に溜め込んだ数万年分の財宝を、全部吐き出した。
「このゴミを持ってけ! “深淵コイン”に替えろ! 今すぐ!!」
取引完了。マモンはコードの書かれた“仮想地契”を抱えて去り、勝った顔をした。
――一時間後。
【全体告知:技術調整により、深淵コインの為替が99.99%暴落しました】
マモンは、紙くずへ変わった資産を見つめ、肺が裂ける悲鳴を上げ、泡を吹いて倒れた。治療法:破産療法。現職:【深淵財務部・主席回収係】。リンは言い放つ。
「金を取り戻したい? なら勇者どもから取り立てろ。回収額の千分の一は、お前の取り分だ」




