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第七十一話:物理無効? なら“概念の降次元”手術だ!

【怪物:ショゴス(Shoggoth)】

【属性:物理無効/魔法喰い/不定形】


「無理だ!リン、逃げろ!!」


アーサーが絶望の叫びを上げる。さっき放った“聖剣気”は泥牛入海。黒い原形質に吸い込まれ、逆にその肉体の一部へ溶け込み――ショゴスをさらに巨大にした。


「これは“不可名状”だ!構造が理解できない!弱点がない!!」


黒い泥の塊が「ずるる、ずるる」と粘ついた音を立て、無数の口を開く。仲間も、巨大スピーカーも、一緒くたに飲み込む気だ。


「理解できない?」


リンは一歩も引かない。外科医の冷酷さが、瞳に宿っていた。


「アーサー。恐怖は“未知”から生まれる。固定の形がないから脳が情報処理できず、恐怖が先に立つ。――だから攻撃が空回りする」


「なら、こちらで“定義”してやる」


リンは両腕を大きく広げ、極めて危険な禁術を起動した。


【神級精神干渉・集団認知固定(Reality Overwrite)】


干渉対象は一人ではない。この場にいる全員の“認知現実”そのものだ。


「見ろ!想像力を総動員しろ!!」


リンの声が呪文のように脳へ刺さり、視覚信号を強制的に上書きする。


「あれは不可名状の怪物じゃない」


「あれは――巨大で、型から出したばかりの、黒くて、ぷるんぷるんの……**こんにゃくゼリー(Konjac Jelly)**だ!」


「繰り返せ。あれはゼリーだ!!」




催眠が深く沈むにつれ、奇跡――というより怪異が起きた。人々の目の中で、ショゴスの不気味な眼球は消え、蠢く触手は滑らかな断面へ。狂気を撒く“神性オーラ”が崩壊し、低次元の普通の“食材”へ退化していく。


これが【概念の降次元】。神を――食材の階層まで引きずり落とす。


「ゼ……ゼリー……?」


深淵行政シェフのデイヴィッド(タコ頭)はまだ震えていたが、“食材”という単語が耳に入った瞬間、タコの眼に異様な赤光が灯った。職業本能が、恐怖を踏み潰したのだ。


「ゼリーなら……角切りだろォォォ!!」


デイヴィッドは咆哮し、扉板みたいな出刃包丁を二本振り回して突進する。黒泥の中へ、旋風のように飛び込んだ。


「深淵包丁術・千層切り!!」


ザザザザッ!


さっきまで万物を呑む怪物が、今は甲高い悲鳴を上げる。――“定義”されてしまったからだ。実体を与えられた瞬間、傷つく。黒いゼラチンが飛び散り、デイヴィッドは狂ったように刻む。一太刀ごとに、再生の核を正確に断っていく。


「この弾力……最高だ!一流の食材だけが持つ反発だ!!」


わずか三分。古代文明を滅ぼした怪物は、整然と並ぶ黒い角切りの山になった。リンは近づき、フォークでまだ微かに震える“肉”を刺し、呆然とするジャンヌへ差し出す。


「味見しろ。戦利品だ」


門番のショゴスを処理した瞬間、神殿の大扉が轟音とともに開いた。さっきの比ではない圧が、闇の奥から噴き出す。それは単なる怪物じゃない。この大陸の主――本物の旧支配者。目覚めた。飢えている。こちらを見ている。

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