第六十八話:異端審問?――いいえ、これは“集団心理治療”だ
聖女が社死しても、教廷の主力――異端審問局は到着した。
恥をかかされた枢機卿は逆上し、神術の鎖でリンを拘束。聖都の中央広場で、全大陸生中継の【公開火刑審判】を宣言する。
“真実を暴いた悪魔”を、世界の前で焼き殺すために。
(場所:聖都・中央広場)
火は既に点いた。リンは高い処刑台に縛られ、下には数万の信徒――そして“電波十字架”で盗撮配信する野次馬がひしめく。
「リン・アドラー!」
枢機卿が高台で正義ヅラし、唾を飛ばす。
「貴様は淫らな思想を拡散した!少女を堕落させた!“娯楽”という精神毒を作り出した!」
「人々は神を畏れず、食って飲んで笑うことしか考えなくなった!貴様は文明の汚点!欲望の奴隷だ!!」
リンはもがかない。ただ、血管を浮かせて怒鳴る枢機卿を静かに見つめた。
そして――【集団精神干渉・心理解析】を起動する。
声は大きくない。だが拡声魔法で、全員の耳へ正確に届く。
「枢機卿殿。見事な罵倒です」
「しかし心理学には、防衛機制の一つ――“反動形成(Reaction Formation)”があります」
「要するに、こうです。
――欠けているほど、誇示したくなる。
――禁忌を渇望するほど、表では激しく攻撃する」
リンの眼差しがX線のように鋭くなる。
「あなたが短いスカートの踊りを憎むのは、……毎晩、夢の中で欲しているのに、教義の鎖で触れられないからでは?」
「あなたが人々の飲食や娯楽を憎むのは、……自由に笑える彼らが羨ましいからでは? あなたは重い仮面を被り、死人のように生きるしかない」
「黙れ!やめろ!悪魔め!」
枢機卿が動揺する。内側の最も黒い部屋に、陽が差し込んだ感覚に耐えられない。
「あなたは私を裁いていない」
リンの声が一段高くなる。慈悲と嘲りが、同時に刺さる。
「あなたが裁いているのは――“罪を犯したい、堕ちたい、でも堕ちきれない” その自分自身です」
「認めなさい。あなたも見たい。あなたも食べたい。あなたも欲望を持ちたい」
広場が、凍りつく。
全員の視線が枢機卿へ集まる。
道貌岸然の老人は、顔面蒼白。全身が震え、目に宿るのは、暴かれた恐怖と――抑圧された狂気。
「あああああ!!」
枢機卿は崩壊し、法衣を引き裂きながら叫ぶ。
「焼け!焼け!早く焼け!!こいつに喋らせるな!!」
――この瞬間、誰が悪魔で、誰が哀れなのか。それはもう、明白だった。
[コメント]
[ うわ…リンの口、祝福されてんの?心臓えぐるやつだ… ]
[ 枢機卿、破防(メンタル割れ)したw ]
[ これ審判じゃなくて大型カウンセリング会場だろw ]




