第六十五話:第一回『幻鏡』配信販売祭――協会の資金繰りを断つ
(場所:深淵診療所・リンの配信ルーム)
夜八時。大陸の一億ユーザーのパッドが同時に震えた。
【特別通知:リン院長の“破産大放出”!早い者勝ち!】
画面の中。リンはめでたい赤い服。目の前には商品が山。さらに背後には――冷たいエルフ女王。威厳の竜王。凶悪な戦神。全員が“背景板&助っ人”として立たされている。
「家族のみんな、こんばんは!!」
リンは大きな拡声器を握り、煽りの才能を全開にする。心理医の矜持? そんなものは荷物置き場に捨てた。完全にトップ営業マンの顔だ。
「最近、外は物騒だよな? 勇者が殴る、魔物が暴れる――不安だろ? 大丈夫!深淵診療所が“ぬくもり”を届ける!」
「まずはこれ!【竜族鱗片シールド(量産版)】! S級防御!禁呪すら弾く!勇者が殴ったら手が折れる! 通常9999ゴールド!だが今日は――」
リンはわざと間を置き、隣の竜王バハムートを見る。
「老鉄!顔立てて!家族のために割引くれ!」
竜王(強制営業、商品説明ボード持ち)が歯ぎしりしながら一言。「……99ゴールド。」
「聞いたか!?99ゴールドだ!!」
リンは顔を真っ赤にして咆哮する。「限定一万!勝負は指!3、2、1――リンク投下!!」
ピン!ピン!ピン! 后台が爆散。一万枚の盾が0.1秒で消えた。
「取れなかった? まだある! 次!【エルフ青春凍齢水】!女王同款!美しくなりたい?旦那を帰らせたい? 9.9で送料無料!!」
狂乱。この夜、大陸の経済システムは完全に揺らいだ。民衆が本来、教会に寄付し、協会に税を払い、備えに回すはずだった金が――全部リンの配信に吸い込まれていく。
さらに皮肉なことに。勇者協会支持の大商会は気づいた。協会で広告を打っても誰も見ない。リンに“大火箭(大ロケット)”を投げれば、一瞬で数百万の露出が取れる。――スポンサーは次々と寝返り、協会から撤退し、リンの配信で“榜一(トップ課金)”になる。
三日後。勇者協会本部。死んだような静けさ。
「会長……終わりました……」財務責任者が泣きそうな顔で、空っぽの帳簿を差し出す。「資金繰りが切れました。来月の給料……払えません。」
「なに……?」会長は椅子に崩れ落ち、十歳老けた。
「それだけではありません。下っ端の青銅勇者たちが辞職騒ぎです。彼らが言うには――深淵診療所が“配信販売のMC”を募集していて、顔が良くて口が回れば、基本給がうちの十倍だと……」
終わりだ。戦争も、流血もいらない。リンはたった一つのアプリと、一回の配信で、勇者協会の血液(資金)を抜き、士気を溶かした。巨大な軍事組織は、今や“空の殻”に近い。
リンは倉庫に積まれた金貨の山を見て、満足げに伸びをした。「よし。第一段階――達成。」
……だが、リンが一息ついた、その時。診療所の扉が叩かれた。来たのは勇者でも魔物でもない。全身を灰色のローブで覆い、胸に“沈黙の眼”の徽章を付けた者たちだった。武器は持たない。だが軍よりも重い圧迫感が、空気を沈める。
先頭の老人が羊皮紙を取り出し、石と石が擦れるような声で告げる。
「リン・アドラー閣下。私は【聖教廷・異端審問局】の執事である。貴殿の“魔導端末”は、未審査の堕落情報を過度に拡散し、《大陸精神純潔法》に重大に違反した。本日より、教廷は貴殿に命ずる。全サーバーを停止し、技術中枢をすべて提出し、“思想浄化”を受けよ。拒めば――貴殿を『文明の汚点』と認定する。」
リンは彼らを見つめ、目を細めた。勇者協会は倒れた。だが、より古く、より頑固で、より厄介な敵――“極端保守派”が表舞台に出てきた。これは腕力の勝負ではない。“自由意志”と“思想統制”の戦争だ。
「思想浄化……?」
リンは眼鏡を押し上げ、危険な笑みを浮かべた。「おじいさん。たぶん知らないだろうが――俺が一番得意なのは、他人の脳を“洗う”ことだ。」




