第六十四話:全民が“記録者”――勇者の人設(イメージ)が崩壊する
勇者協会が執法隊を送り、民間の黒曜石パッドを没収しようとした、その矢先。一人の村娘が投稿した動画が、突然『幻鏡』で爆発的に伸び、アリスによって“強制ピン留め”――全員の画面に押し込まれた。
タイトル:【これが私たちを守る“勇者様”ですか?】
内容――カメラは激しく揺れている(明らかな盗撮視点)。辺境の村の市場。白銀の鎧を着て、胸に勇者協会の徽章を付けた男が、野菜売りの老人の屋台を足で蹴り倒す。「ジジイ!今月の“みかじめ料”はどうした?」「金がない? なら孫娘を寄こせ。結構みずみずしいじゃねぇか!」
勇者の醜い貪欲が、高清画質と音声で丸裸にされる。――昔なら。こういうことは毎日どこかで起き、村人は訴える場所もなく、地方官は手を出せず、新聞は書かない(新聞社は協会の手中だ)。
だが今は違う。コメント欄が瞬時に核爆発(10万+):
「畜生!それが白銀勇者?白銀の強盗だろ!」
「知ってる!カールだ!うちの村で牛を奪った!」
「協会は税金で何してた?こんなゴミを養ってたのか!」
「特定しろ!王都の住所、俺知ってる!」
怒り。千年分の怒りが、小さな画面を通じて洪水になる。半日で。“カール”の家の前は腐った卵と野菜くずで埋まり、地元の協会支部すら民衆に包囲された。
二本目、三本目……次々に動画が上がる。虐げられてきた人々が震える手で端末を握り、カメラを“偉い連中”に向け始めた。【全民監視の時代】が到来した。
総会長は、画面いっぱいの罵倒を前に手足が冷える。百年かけて作った“光のイメージ”が、たった15秒の証拠の前で、紙のように脆いと気づいたのだ。釈明する。声明を出す。広報文をばら撒く。だが――動画証拠の物量の前では、どれも白々しい。
世論戦は完全勝利。勇者協会は名誉を失墜した。……しかし、名誉だけだ。金庫は残り、軍も残る。依然として巨大な怪物である。
「まだ足りないな。」
リンは跳ね上がる流量グラフを眺め、資本家の牙を覗かせた。
「全人類がここに集まっているのに、刈り取らない手はない。アリス。照明と棚を用意。今夜八時――全網初のライブコマース、開始だ。」




