第六十話:“詰め込み育成”開始!飛行試験に落ちたら家から追放
財産没収は第一段階にすぎない。本当の地獄は――
【深淵・ドラゴン族スパルタ訓練キャンプ】の設立だった。
竜の谷で最も高い断崖。脂肪で球みたいに丸い子竜たちが、崖っぷちにぎゅうぎゅう詰めで震えている。
「ムリ……高所恐怖症……羽、疲れる……」
グリーンドラゴンが泣きながら後ずさる。
「高所恐怖症?」
リンは崖の縁で微笑む。
「鳥が飛ぶのは空に憧れるからだ。」
「お前たちが飛ぶのは――飛ばなければ死ぬからだ。」
リンは淡々と命じた。
「アーサー。落せ。」
「りょーかい。」
元勇者アーサー(現・人事兼教官)は、例の作り笑いを浮かべ――容赦なくそのグリーンドラゴンを崖下へ蹴り落とした。
「うわぁぁぁぁ!!助けてぇぇぇ!!」
落下。百メートル、二百メートル――岩肌に叩きつけられ、肉片になる寸前。生存本能が、怠惰を上回った。
「フ――!!」
地上十メートルのところで、グリーンドラゴンは数百年使っていなかった翼をバッと開き、必死に空気を叩く。よろよろと、だが確実に滑空し始めた。
「ほら。できるじゃないか。」
リンは満足げに頷き、残りの子竜たちを見る。
「次。」
飛行だけではない。狩猟訓練もある。口元まで運ばれていた丸焼き牛は、山中を暴走する魔化イノシシに置き換えられた。
「捕れなければ、飢えろ。」
さらにリンは、人間の教育界が誇る最終兵器を投入する――【ランキング表】。
広場に巨大な魔法スクリーンが立ち上がる。
【本日のドラゴン内巻きランキング】
・1位:小紅(トーマス回転飛行を習得)
報酬:深淵・至尊ビュッフェ券×1
・最下位:小緑(飛び方がアヒル)
罰:全族へ公開説教+夕食没収
「えっ、隣の小紅、もう一位!?」
「小緑、竜の恥だろ!」
竜族のクソみたいなプライドと見栄が、ついに点火した。面子のため、飯のため――数百年動かなかった巨大赤ん坊どもが、狂ったように自主練を始める。
谷中に響くのは、うなり声と羽ばたきの風切り音。竜王バハムートはその光景を見て、泣きながら天を仰いだ。
「ううう……列祖列宗よ……」
「子どもたちが……やっと“竜”になってきた……!」




