表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/59

第五十五話:不老不死でも“容姿不安”はあるのか?

女王は白目をむき、毛布を引き寄せる。


「自殺で結構。生きても退屈。医者、用がないなら下がって。寝る。」


「退屈?」


リンは下がらない。指を鳴らす。


「アリス。全息ホログラム巨幕を展開。あの映像を流せ。」


「了解。」


世界樹の前に巨大スクリーンが点灯する。


映ったのは風景ではない。


“深淵ファッションウィーク”のダイジェスト。


サキュバスが最新のヴィクトリアズ・シークレット風下着でランウェイを歩き、吸血鬼貴婦人が限定口紅とバーキンで見せびらかし、ゴブリン成金がスポーツカーで爆音を鳴らす。


死んだ目のエルフたちの眼球が、わずかに動いた。


リンはマイクを持ち、甘い毒の声で言う。


「エルフ諸君。君たちは自分たちを“世界で最も完璧な種族”だと思っている。」


「だが外を見ろ。」


「粗暴な獣人ですら最新の魔導スマホを持っている。強欲なゴブリンは限定バッグを背負っている。」


「それに比べて君たちはどうだ?」


「何百年前の服を着て、埃まみれ. 肌は乾き、光っていない。」


リンは女王の前へ進み、高精細の鏡を差し出す。


「陛下。目尻を見てください。」


「それ……魚の尾ひれみたいな皺、ですよね?」


「なっ……!?」


女王は毛布から跳ね起き、鏡を奪って叫んだ。


「ありえない!私は不老不死のエルフよ!皺なんて――!」


リンは静かに言い切る。


「退廃は、最大の老化促進剤だ。」


リンは懐から一本の小瓶を取り出す。


【深淵特製・小棕瓶ことうびん美容液】(※中身は聖水に着色しただけ)


「外の世界で奪い合いになっている“青春凍結水”だ。最も高貴な女性だけが持てる。」


「塗れば、即効だ。」


「わ……私に!」女王が手を伸ばす。


リンは、すっと引っ込めた。


「残念。陛下。これは“限定品”です。」


「並ぶ必要がある。抽選もある。あと――金もいる。」


「金?いくらでもあるわ!」


女王は国庫へ突撃し、埃をかぶった宝石箱を山ほど運び出した。


女王だけじゃない。


女エルフたちは、スクリーンの艶やかなサキュバスを見て、比較欲が一瞬で燃え上がる。


「なんであのサキュバスの肌のほうが綺麗なのよ?」


「あのバッグ……欲しい……!」


【コメント】


【リン:長命種に“容姿不安”と“消費主義”を植え付けるとか、お前悪魔か?】


【エルフ:寝そべるつもりだったのに、限定品で釣られた!】


【“比較”が生まれた瞬間、ユートピアは崩れる。】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ