第五十二話 これは“運”ではない。“確率論”による降臨だ
賭けが始まった。
第一ゲーム。
タコ船長が触手をひらりと振るだけで、カードが勝手にめくれる。21点。ブラックジャック。
リン:18点。負け。
第二ゲーム。
タコ船長:20点。
リン:19点。負け。
「ガハハハ!見たか?力が運命だ!俺は選ばれし者!天に愛された存在よ!」
タコ船長は狂ったように笑い、卓を触手で叩く。粘液が飛び散った。
アーサーは冷や汗だらだらで叫ぶ。
「リン!あいつ、イカサマだ!神の力でカードをすり替えてる!」
「シッ。」
リンは落ち着き払って、アリスが差し出した紅茶を一口飲む。
「弾が飛び切るまで、少し待とう。」
リンは視線も動かさず言った。
「アリス、サンプル採取は十分か?」
感情のないアリスの声が返る。
「採取完了。相手の出千パターンを解析。『混沌運気アルゴリズム』モデルを構築。配牌規則を解読しました。」
「よし。」
リンは襟を整える。
「船長。さっきのはウォームアップだ。ここからが本番。」
第三ゲーム。
リン:「ヒット。」
アリス:「計算上、次の一枚がハートの7である確率は99.9%。」
配られる。
――ハートの7。
21点。
第四ゲーム。
タコ船長の顔色が変わる。こっそり神力を使い、リンの手札を“死に札”に変えようとした。
アリス:「空間の揺らぎを検知。反干渉フィールド起動。確率補正。」
結果。
タコ船長の手札が爆発する(22点)。
第五ゲーム、第六ゲーム、第十ゲーム……
リンは五十連勝。
タコ船長の触手は絡まり、赤い頭は真っ青に変わった。汗(あるいは海水)が滝のように流れる。
「ありえん……ありえん!」
「俺は運の神だ!なぜ負ける!?」
リンは立ち上がり、両手を卓につき、崩壊寸前の邪神を見下ろす。
「運?」
「それは弱者が“未知”を言い訳するための言葉にすぎない。」
「大数の法則(Law of Large Numbers)と量子計算機の演算力の前じゃ、お前の小細工は――原始人の火遊びだ。」
リンの声は冷たく、容赦がない。
「船長。お前は運に負けたんじゃない。」
「数学に負けたんだ。」




