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第五話 五十一層の悪夢、S級パーティー全滅へのカウントダウン

(場面転換:ダンジョン五十一層・「光輝の剣」パーティー)


「撤退だ! 全員撤退しろ!!」


 レオは、喉が裂けんばかりに怒鳴った。


 誇りだった黄金の鎧は、強化されたボスの爪に引き裂かれ、ぼろ布同然。


 顔中血だらけで、見る影もない。


 だが、もう間に合わなかった。


 ボスが解き放っているのは、物理的な攻撃だけではない。


 広域精神攻撃【マス・フィアー】。


「逃げる? どこへ?」


 パーティーの神官が、気味の悪い笑い声を上げた。


 彼女はヒールを投げることもなく、その杖の先をレオの背中へと向ける。


「あなたのせいよ……全部、あなたのせい……」


 神官の瞳は真っ白にひっくり返っていた。


 彼女のSAN値は、ゼロを振り切っている。


「あなたがリンを追い出さなければ……私たちは、こんな目に遭わなかった……もしあなたが死ねば……リンは戻って来てくれるかも、ね?」


「おい、なにしてやがる! 俺はリーダーだぞ!」


 レオは青ざめた顔で叫ぶ。


 だが、狂ったのは神官だけではなかった。


 タンクのガレスが、盾を振りかぶり、耳鳴りがするほどの咆哮を上げる。


「うるさい……うるさいうるさい! 全部ぶっ壊せば静かになるんだ!!」


「や、やめろ! 落ち着け! お前たち正気に……ぎゃあああああ!!」


 悲鳴が響き、レオは自分の仲間たちに地面へと押し倒された。


 鉄と骨がぶつかる不快な音が、暗いフロアに響き続ける――。


 配信画面は、そこで途切れた。


 一方、リンのライブ配信を見ていた視聴者たちは、その一部始終を同時に目撃していた。


[ 因果応報ってこういうことか ]


[ メンタル干渉師を失ったパーティーなんて、ただの狂犬の群れだな ]


[ ざまあ……と言いたいところだけど、リンさんのところも今やばくない? ]


 その頃、九十九層の療養所前。


 リンは、小牛の威圧と精神戦術を駆使して、どうにかエルフ王子を撃退したばかりだった(戦闘の詳細は尺の都合で割愛)。


 ようやく一息つこうかという、その瞬間――。


 ミシッ。


 ダンジョン九十九層の“天井”に、亀裂が走った。


 本当の絶望が、訪れる。


 言葉では形容できないほどの圧倒的な威圧感が、フロア全域を覆った。


 S級であるはずのミノタウロスが、鼠のように地面にへたり込み、震え出す。


 シルヴィは、その場で気を失った。


 天井を覆っていた黒い霧が、巨大な手で裂かれたように割れていく。


 ダンジョンの最終ボス。


 「破壊法則」を司る存在――深淵の魔王、アスモデウスが降臨した。


 コメント欄は、一瞬の空白のあと、爆発的な勢いで埋め尽くされる。


[ !!!!!! ]


[ 魔王だ! 生きてる魔王だぞ!! ]


[ 終わった終わった、今度こそ詰み。いくらリンさんでも魔王は無理でしょ…… ]


[ 逃げろって! 療養所は諦めて逃げて!! ]


 扉が、きぃ、と音を立てて開く。


 漆黒のローブをまとい、ねじれた角を持つ男が、静かに中へ入ってきた。


 その目は、ただ見下ろすだけで魂を凍らせるような冷たさを帯びている。


 一歩、踏み出すごとに、床石が凍りつく。


 詰み。


 第一話を上回る、“絶対に死ぬ”シチュエーション。

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