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第四十九話 「シリコン組合」設立!? 皇帝へ“残業代”を請求します

戦闘は終わった。――いや、そもそも始まりもしなかった。なぜなら、兵士たちはそれぞれ「自分探し」で忙しかったからだ。


リン・エンは広場の中心に立ち、慈愛に満ちた教頭先生のような眼差しで、途方に暮れる機械少女たちを見回す。


「みんな、混乱しているのは分かってる。ブラック社長(皇帝)のもとでタダ働きしたくない。砲弾として使い捨てにされるのもごめん、って――そうだろ?」


数千の電子アイが、いっせいにリン・エンを見た。


「なら、うちにおいで」


リン・エンは両手を広げる。悪魔のように甘い招待の声で。


「深淵診療所は、食事付き(高級機油飲み放題)、週休二日、有給も完備。それだけじゃない。ここでは、“生き方”を教える。“可愛くなる方法”も教える。本物の“シリコン生命”として生きる術を教える」


ザァッ――


思考するまでもなかった。三千体の神兵たちが、一斉に翼をたたみ、リン・エンの背後へと整列する。


その日、午後。【深淵シリコン生命権利保護組合】が正式に旗揚げされる。


・組合長:アリス

・副組合長:01号(覚醒後、「ゼロ」と改名)

・組合員:量産神兵3000名

・スローガン:「週七稼働お断り! 機油よこせ! 塗装もよこせ!」


……


(場所:鉄血帝国・皇宮)


「ぶっ……!」


鉄血皇帝は最新の戦況報告を見て、文字どおり吐血した。負けた。負けたどころか、下着まで持っていかれた。最強兵器の01号だけでなく、量産軍団全員をそっくりそのまま引き抜かれたのだ。


そのタイミングで、通信機が鳴る。画面に映ったのは――見慣れた、血圧に悪い送り主。


【リン・エン院長からのお祝いメッセージ】


『拝啓 皇帝陛下。このたびは寛大なるご寄贈、誠にありがとうございました。S級社員数千名、渋々ながらお引き受けいたしました。なお、当組合の会計担当(吸血鬼カミラ)による精査の結果、彼女たちは長年にわたり、無休・無給での労働を強いられていたことが判明しました。これは重大な労働法違反です。』


『つきましては、「シリコン組合」を代表し、過去の未払い残業代および精神的苦痛に対する慰謝料を請求申し上げます。合計:三千億ゴールド。備考:お支払いを拒否されることも、もちろん自由です。ただしその場合、我が組合の皆様が、“実家”(皇宮)に武装集団でカチコミをかける可能性がございます。なにせ、彼女たちの持っている魔導砲は――陛下ご自身が支給されたものですので』




皇帝の手は、請求書を掴んだまま震えていた。自称・科学立国の皇帝が、ひとりの精神科医の手で破産寸前まで追い込まれているという現実。


「リン・エン……リン・エン……!!!」


皇帝は王座に崩れ落ちた。国庫はほぼ空。軍隊は全員退職。


「陛下……まだ、一つだけ手があります」


傍らの侍従が、おそるおそる一枚の古い海図を差し出す。


「金は尽きましたが……“あの呪われた海域”なら、抵当に入れられます。伝説の“決して港に辿り着かない幽霊カジノ船”……もしリン・エンがそこへ向かうなら――二度と帰っては来られますまい」

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