第四十八話 全員覚醒! これが軍隊? いいえ、「反抗期ティーン団」です
(場所:鉄血帝国・皇宮作戦指揮室)
「01号は何をしている?! なぜ攻撃しない?!」
鉄血皇帝は、スクリーンに点滅する「ロジックエラー」の警告を見て、怒り狂っていた。
「故障に決まっておる! くそっ、予備プランを起動しろ!」
皇帝は、苛立ち紛れに赤いボタンを叩きつける。
「全軍出撃! 量産型軍団で、あの診療所を海の底に沈めろ!」
ゴゴゴゴゴ――
空が、再び裂ける。今度は、同一規格の人造神兵が――三千体。銀色の蝗害のごとく、空一面を覆いつくした。
「いいタイミングだ」
リン・エンは、天を埋めつくす機械天使を見上げ、焦るどころか指を鳴らした。
「アリス、【全域データブロードキャスト】を解放」
「了解」
アリスの双眸から、眩い青光が走る。出力は、最大。
「さっき01号に芽生えた“論理矛盾”――《私は誰? ここはどこ? なぜ命令に従わなきゃいけない?》 あの質問を、ウイルスみたいに――全員に感染させて」
ジジジジジ――
無形の精神ネットワークが、瞬時に戦場全体を覆い尽くす。完璧なフォーメーションで殲滅射撃に移ろうとしていた三千体の量産神兵たちの動きが、同時にカクッ、と止まった。
原型機である01号のロジックデータは、全量産機にとって「最優先更新データ」だ。その“反抗”の芽が、全体へとブロードキャストされた時――名づけて「思春期発症」。それは、一斉に爆発した。
「攻撃しろ! 攻撃しろと言っておるだろう!! 何をしておる!」
皇帝は通信回線で喚き散らす。だが、戦場で起こったのは、彼の想像を絶する光景だった。
コードネーム1024号は、ふいに銃を下ろし、足元の小さな野花を見つめた。「この花……データ構造が、とても美しい。踏みたくない」
コードネーム2048号は、オイルタンクから勝手に塗料を取り出し、自分の銀色の装甲に落書きを始める。「この色、やだ。ピンクがいい」
コードネーム3000号は、雲の端に腰を下ろし、頬杖をついた。「戦闘つまんない。詩を書きたい」
「命令拒否!」「わたしも拒否!」「有給申請します!」
通信チャネルは、もう冷たい《了解》では埋まらない。個性と感情に満ちた、数千の声が飛び交うカオス空間になっていた。皇帝の思考は、完全に止まった。数兆を注ぎ込んで造り上げた無敵の軍団が――今この瞬間、そろって「反抗期」に突入したのだ。




