表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/55

第三十八話 初回講義に誰も来ない? じゃあ「スクールカーストいじめ」の実演だ

(場所:セント・フレイア王立魔法学院)


「ここが、大陸中の天才が集まる場所ねぇ……」


リンは荘厳な学院正門の前に立ち、飾り立てた法衣をまとい、鼻で風を切る貴族生徒たちを眺めながら、眼鏡をくい、と押し上げた。


今日の彼は、きちんと仕立てられた黒の教授用ローブに着替え、胸元には「客員教授」と刻まれたバッジが光っている。


背後には、どう見ても普通の助手には見えない二人の「助教」が続いていた。


一人は、プロジェクターと講義資料の束を抱えたS級機娘アリス(クール秘書スタイル)。


一人は、スーツ姿に社員証をぶら下げた元勇者アーサー(現在は深淵診療所の人事担当。今日は出張扱い)。


「リン教授。履修登録データによりますと」


アリスの抑揚のない声が響く。


「あなたの選択科目『精神防御と認知再構成』の現在の登録者数は──0名です」


「理由分析:学生たちは精神系魔法を『補助のゴミ』と見なしており、ファイアボールのほうが“カッコいい”と考えています」


「0?」


リンは眉をひとつ上げる。


「なるほど。象牙の塔にこもったガキどもには、一度“社会の鉄槌”を味わわせる必要がありそうだ」


  ◇


(場所:戦闘魔法科・実技演習場)


こちらは人の波と歓声でごった返していた。


学院一の人気授業《破壊魔法実戦》の真っ最中だ。


訓練場の中央では、学院公認ナンバーワン天才、隣国の炎の王子が、つい最近習得したばかりの「第五階位・爆炎弾」を得意満面で披露している。


「――砕け散れ!」


ドォン!


巨大な火球が標的を木っ端みじんに吹き飛ばし、観客席の女子生徒たちから黄色い悲鳴が上がる。


「弱いな」


冷ややかな声が、その熱気の中にすっと差し込んだ。


場内の時間が止まる。


全員の視線が、一斉に入口へと向かった。


リンが二人の助教を引き連れ、自宅の庭にでも入るような顔でずかずかと入ってくる。


「何者だ? この俺の魔法を侮辱するとは」


炎の王子が怒りに顔を朱く染め、杖の先端をリンに突きつけた。


「新任の客員教授だよ」


リンは王子の前まで歩み寄ると、杖すら抜かず、両手をポケットに突っ込んだまま言った。


「君のファイアボールは、確かに第五階位の破壊力は出ている。


だが──君の精神防御は、スライム以下だ」


「貴様っ……死にたいようだな!」


王子が激昂し、魔力を一気に練り上げる。


「今すぐその口を――」


「3、2、1」


リンがふいに遮り、子守歌のように柔らかい声でカウントをとる。その声には、妙なリズムが潜んでいた(高速催眠誘導)。


「……何だと?」


「君のズボンが落ちた」


「は?」


「ベルトのバックルが弾け飛んで、ズボンが足首までずり落ちたよ。


みんな、君のクマさん柄パンツを見ている」


リンの声は、王子の理性的な防御をすり抜け、潜在意識へと直接潜り込む。


現実には、王子のズボンはぴっちり履かれたままだ。


だが彼の感覚世界では、太ももに冷たい風が当たる感触、そして周囲からの「存在しない嘲笑」が、鮮明すぎるほど鮮明に再生されていた。


「あああああああっ!?」


学院中の教師と生徒が、目を剥く中。


高貴なる炎の王子は、顔を真っ赤にして悲鳴を上げ、杖を放り出して両手で完璧に無傷なズボンの前を必死に押さえた。


「見るなぁぁぁ!! 見るなぁぁぁ!! 俺のズボンがぁぁぁ!!」


彼は発狂したように、脚をすり合わせながら訓練場を“全力裸体疾走”し(本人基準)、最後には羞恥のあまりトイレへと消えていった。


――沈黙。


訓練場全体が石像と化す。


リンは眼鏡を押し上げ、口をぽかんと開けたままの学生たちへ向き直る。


「分かったかな」


「認知を崩してしまえば、どれほど強大な魔法使いでも、ただの全力裸走り変態に過ぎない」


「これが“社会的死”──いわゆる『社死』だ」


「この技を学びたい者は、今日の午後二時、十三番階段教室に来なさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ