表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/55

第三十七話 新ポスト決定! 「没入型ホラー館」の最恐警備員

  三日後。


深淵罪悪楽園に、新たな目玉アトラクションが誕生した。


その名も――【第100層・地獄級リアル脱出ホラー】。


オープン初日から長蛇の列ができ、


刺激を求めるS級冒険者、命知らずの配信者、他国の王子に至るまで、


「絶対クリア不能」と噂されるこの高難度ダンジョンに挑戦しようと詰めかけていた。


「ぎゃあああああああ!! マジで魔王本人だって!!」


「お母さぁぁん! 帰るぅぅ!! 参加費返せぇぇ!!」


ダンジョン深部から、阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る。


そこでは――


フル装備のS級パーティが、装備もプライドも投げ捨てて全力疾走していた。


その背後を、全身黒炎をまとったバアルが、実に楽しそうに追いかけている。


「逃げるなぁぁ! 勇者様方よぉ!


世界を救うんじゃなかったのか!? ほらほら、もっとワシを楽しませろ!!」


もちろんリンから「殺生禁止」の制約がかかっているため、命を奪うことはできない。


だがそれが、かえってバアルの嗜虐心に火をつけた。


「殺さない」縛りの中で、いかに相手を恐怖のどん底に叩き込むか――


彼は一瞬で、その遊び方をマスターしてしまったのだ。


人間たちが涙目で悲鳴を上げ、武器も捨てて逃げ惑う。


バアルは、彼らが失禁寸前になるギリギリのラインを測りながら追い立て、


その反応を心底楽しんでいた。


「クハハハハ! 堪らん! これはクセになるぞ!」


気絶した聖騎士を片手でつまみ上げ、ボールのように投げ飛ばすと、


バアルの顔には、心底からの満足が浮かぶ。


「リン! この“チーフ・スケア・オフィサー(CSO)”って役職、最高だな!


今後、楽園で暴れる客がいたら、ワシが直々に足の骨を粉々にしてやる!」


監視室のモニター越しにその様子を眺めながら、


リンは満足そうに頷いた。


「家族問題、解決。人材配置も最適化。――パーフェクトだね。」


だが、ようやく一息つけるかと思った矢先。


窓ガラスを破って、一羽のフクロウが飛び込んできた。


それは普通のフクロウではない。


流動するミスリルで形作られ、両の瞳には知性の青光が宿っている、完全自律式魔導フクロウだった。




フクロウは金の縁取りが施された一通の封書を落とし、光となって霧散する。


リンは封書を拾い上げる。


封蝋に刻まれていたのは、杖、真理の眼、星々を組み合わせた紋章。


それは、この大陸のすべての魔法使いにとっての聖域にして、


王権すらも凌ぐ権威を有する機関の証――


【聖フレイア王立魔法学院】の紋章だった。


リンが封を切る。


流れるような魔法文字で、こう記されていた。


『尊敬するリン・アドラー閣下へ。


貴殿が“精神干渉”領域において示された比類なき独創性


(および王都に対する、前例のない破壊的インパクト)を鑑み、


本学は心より、今学期の「客員教授」としてのご就任を要請いたします。


なお、貴殿が長らく探索しておられる“あの品”――


精神力の具現化に関する古代碑文――は、


本学・禁書図書館の奥深くに秘蔵されている可能性がございます。


ご来訪を心よりお待ち申し上げます。


                        ――校長 メルリン』


リンは招待状から目を上げ、静かに目を細めた。


「王立魔法学院の……客員教授、ね。」


ロビーを見渡せば、そこにはS級モンスター社員たちが、


いかにも「平和ボケしたブラック企業」の社員のように、適度に仕事をサボりながら蠢いている。


「諸君。」


リンは手を打ち鳴らし、一同の視線を集めた。


「どうやら、支店を出すときが来たようだ。」


「今回のターゲットは――


自分たちを“選ばれた天才”と信じて疑わない学生どもと、


大陸最大の“象牙の塔”だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ