第三十四話 最強の「鬼父」降臨! 魔王、孫扱いでボコられる
(場所:地下ダンジョン第99層・深淵診療所ロビー)
ドオオオォォン――!!
けたたましい爆音とともに、第33層のドワーフ王が自ら鍛えたという、「禁呪すら防ぐ」と豪語された合金製の大扉が、紙切れのように室内へ吹き飛び、壁にめり込んだ。
土煙が晴れていく。
そこに現れたのは、身長ほぼ三メートル。
全身の筋肉は岩盤のように盛り上がり、肌という肌には、消えることのない地獄の黒炎がゆらめいている。
先代・深淵の王。
大陸全土を震え上がらせた「破壊魔神」バアル。
「よっ、バアル叔父さん。ひさしぶ――」
ソファでプリンを食べていた現役魔王アスモデが、手をひらひらさせて挨拶しようとした、その瞬間。
ドガンッ!
言葉より先に拳が飛んだ。
バアルの巨体が一瞬でアスモデの目の前に移動し、黒炎をまとった大きな手でその頭をわし掴みにすると、そのまま床へと叩きつける。
「この出来損ないが! ちょっと目を離したくらいで、魔界をどんなナメくさった有様にしとるんじゃ!!」
雷鳴のような咆哮が診療所中に響き、窓ガラスがビリビリと震えた。
「それから――」
バアルはゆっくりと振り返り、その燃え盛る眼光を、二階でお茶を飲んでいるリンへと向ける。
圧倒的な威圧が一瞬で降りかかる。
S級牛頭人ミノは腰を抜かし、そのまま土下座して股の間に頭を突っ込んだ。
吸血鬼カミラはカウンターの陰に隠れて震え上がり、機娘アリスのシステム画面には真っ赤な警告ウィンドウが乱立する。
「リン。」
バアルはリンの鼻先を指さし、怒号を叩きつけた。
「地上に潜り込ませたのは、世界征服の足掛かりを作らせるためだ!
なのに何だこれは? 診療所だと? 挙句、アーサーとかいう勇者とつるんどるだと?
この親不孝者が! ワシを怒り死にさせる気か!!」
普通の人間なら、その場でショック死してもおかしくない殺気の奔流の中――。
リンは、茶杯を静かに置き、手首の時計に視線を落とした。
「親父、5分遅刻。」
リンは眼鏡を押し上げ、まるで出前にクレームを入れるかのような平坦な声音で言い放つ。
「それと、出所早々そのキレっぷり。
やっぱり『更年期情緒調整障害』、まったく改善してないどころか悪化してるね。」
【弾幕】
[ うおおお! こいつがリンの実父!? 画面越しでも圧がヤバいんだが!? ]
[ 現役魔王ワンパン沈められてて草。先代魔王どんだけ強いんだよ。 ]
[ 主人公マジで肝座ってるな……よりにもよって魔神相手に「更年期」って言ったぞ!? ]




