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第三十三話 第一勇者、まさかの入社!? 配属先は――

そのあとアーサーは、丸七日七晩、眠り続けた。


目を覚ましたとき、自分がいる場所に気づくる。


そこは、深淵診療所の特別個室だった。


柔らかな陽光がカーテンの隙間から差し込み、頬をあたためる。


アーサーはいつものクセで、聖光を呼び出そうとして――


胸の内が、空っぽになっていることに気づいた。


「起きたか。」


ベッド脇の椅子に腰かけ、リンがりんごの皮を器用にむいていた。


「悪い知らせからだ。


さっきの大公開ブチ切れ事件のおかげで、勇者協会はお前を“除名”した。


ついでに、お尋ね者にもなってる。


今のお前は、ちょっと頑丈なだけの一般人だ。」


アーサーはしばらく呆然と天井を見つめ――。


ゆっくりと、体を伸ばした。


長い長い欠伸とともに、心の底からほどけたような笑顔を浮かべる。


それは、これまでの「営業スマイル」とはまるで違う。


「……よかった。ようやく、クビになれた。」


リンの手からりんごを取り上げ、ガブリと豪快にかじる。


「でも、行くところがありません。お金もゼロです。


リン先生、僕の人生をぶっ壊した責任、取ってくれますよね?


衣食住、面倒見てもらいます。」


「もちろん。」


リンは胸ポケットから、一通の書類を取り出した。


そこには、すでに深淵診療所のロゴが入っている。


「うちは今、“人事部長(HRマネージャー)”が不足していてね。」


「仕事は簡単だ。


受付カウンターに座って、深淵に就職したいって言ってくる魔物や勇者候補を面接する。


二十年かけて磨いた“プロの笑顔”で、


不合格なバカどもを、やんわりとお引き取り願う。」


「……得意だろ?」


アーサーは吹き出した。


「断る側、ですか。


ずっと“期待される側”しかやらせてもらえなかったので、ちょっと憧れてたんですよね。」


ペンを取り、ためらいなくサインする。


【全域告知】


【プレイヤー「リン」、『光の子』の治療に成功。】


【伝説級スタッフを獲得:元勇者アーサー(HRマネージャー)。】


【新スキル解放:100%笑顔でお断り。】


――深淵診療所・受付フロア。


「あ、あの……警備員の求人を見て来たんですが……。」


ごつい棍棒を抱えたオーガが、もじもじとカウンターの前に立つ。


その向こう側で、スーツに身を包み、社員証をぶら下げたアーサーが、


世界中を虜にした、あの春風のような笑顔を浮かべた。


「ご応募ありがとうございます。


ですが申し訳ありません――


当院では、最低限の知性指数を満たしていない方は採用できない決まりになっておりまして。


どうか、ご退出ください。」


オーガはその笑顔に正面から晒され、自分の愚かさを全身で悟り、


真っ赤になって深々と頭を下げて退散していった。


「上出来だ。」


二階の手すりにもたれながら、その様子を見ていたリンは、満足げに頷く。


だが、そのささやかな平穏は――すぐに中断された。


ウゥゥゥン――。


リンの前に浮かんだシステム画面に、真っ黒なスカルマークの巨大ポップアップが躍り出る。


これまでのどんな警告とも違う。


カウントダウンもなく、第99層全体を震わせるような、


圧倒的なプレッシャーだけが伝わってきた。


【警告! 警告!】


【“深淵本源”の急速接近を検知!】


【身元照合:先代深淵魔王・バアル】




【補足:あなたの生物学的“父親”です】


【敵意レベル:極大。】


【伝言:「あの親不孝者はどこだ? 人間なんぞとつるんで、診療所だぁ?


今日はその足、へし折ってやる!」】


リンは表示を見つめ、眼鏡を押さえる手を――初めて固まらせた。


隣でプリンを食べていた現役魔王アスモデは、


スプーンを落として青ざめる。


「終わったな、リン。


お前の親父、出所してきたぞ。」


「しかも……予約も入れてねぇ。」

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