第二十八話 本当の必殺技は「ガチャ」だ! 機娘と聖女、異世界アイドルデビュー
それから半月が過ぎた。
罪悪パークは順調に稼働し、大儲けしていた。
だが、一千億という元本の額は、あまりにも桁外れだ。大型設備投資を回収しきれておらず、このペースでは、決戦の期日までにとても間に合わない。
「リン! こんなちんたらやってたら間に合わん!」
売上曲線の伸びが落ちてきたグラフを見て、金牙会長が焦れ始めた。
「あと半月だぞ! 元本が返せないなら、契約通り――ここも、お前も全部もらうからな!」
「慌てないでください、会長。」
リンは相変わらず涼しい顔で、新しいポスターを一枚取り出した。
「怒りと憎しみで払わせる金には、限界があります。人の財布の底に眠っている“最後の一枚”を引きずり出すには――“愛”が必要なんですよ。」
翌日。
深淵楽園は新コンテンツを解禁した。その名も――【深淵少女隊・握手会】。
前触れもなく、異世界史上初の「本格アイドルライブ」が、中央広場で開幕したのだ。
センター:堕落聖女セシリア。
重い聖職者のローブを脱ぎ捨て、黒のゴシックロリータに身を包んだ彼女は、「清純」と「背徳」のあいだを行き来するような視線でマイクを握り、リンが前世の記憶からパクってきたラブソングを、神に祝福された歌声で歌い上げる。
ダンス担当:S級機娘アリス。
一糸乱れぬ精密機械じみたステップ。ミリ単位で計算されたターンとジャンプ。身体各所に仕込まれたライトが、サイバーパンクな光跡を描くたび、観客は歓声を上げた。
ビジュアル担当:エルフ姫シルヴィ。
氷のような美貌と、どこか見下すようなクールな視線。ただそこに立っているだけで、ひとつの完成された絵になる。
異世界の金持ちどもは、こんな光景を見たことがない。
セシリアが客席に向かって投げキスをすると、沸騰した鍋のように広場が揺れた。
「せ、聖女様が……こっちを見たあああっ!」
「アリスたん! 俺の子を産んでくれ!!(※ロボです)」
熱狂が頂点に達した瞬間を狙い、リンは真の切り札を切った。
――【ブラインドボックス&ガチャシステム】の導入。
「ファンの皆さま〜! アリスの限定フィギュアが欲しいですか? セシリアの“個別握手券”が欲しいですか?」
「それならこちら、『深淵ブラインドボックス』をどうぞ! 一箱888ゴールド!」
「中身はただの石ころかもしれませんが――運が良ければ、SSR級の超レアが当たるかもしれませんよ!」
――“ギャンブル脳”という名のウイルスが、場内を支配した。
「十連いきます!」
「出ねえ! もう百連だ!」
金牙会長ですら、ショーケースに飾られた、メイド服姿のアリス限定フィギュアを見つめて生唾を飲み込んでいた。
「ゴホン……しょ、商品検査だ。そう、品質チェックだ。よし、そのブラインドボックスを一箱……いや、一ケースこっちに回せ。」
その夜。
黄金連邦の出張拠点の灯りは、夜通し消えることがなかった。帳簿の前に座って“合理的な投資”を誇ってきた商人たちが、箱を破るたびに理性を失っていく。
「出た! 隠しレアきた!」
「くそっ、またハズレか! もう一億追加だ!」
【弾幕】
[ 悪魔だ……リン、お前こそ本物の悪魔だよ。]
[ 異世界で二次元ガチャ導入は反則だろ。次元が違う。]
[ 地精どもが廃課金で破滅していくのを見るの、最高に気分がいいな。]




