第二十七話 深淵パーク開園!世界中の金持ちよ、「順番に金を置いていけ」
三日後。
王都の廃墟は、怒涛の突貫工事によって、巨大なゴシック風テーマパークへと姿を変えていた。
その名も――【深淵罪悪楽園】。
まともな宣伝は一切していない。ただ一つ、「元国王が肥溜めをさらっている」という噂だけで、大陸中の話題をさらうには十分だった。
開園初日。
王都の門前には、各国からやって来た豪華な馬車がずらりと並ぶ。復讐に燃える庶民だけではない。黄金連邦の大商人、隣国の公爵、素性を隠した要人たちまで、こぞってパークのチケットを求めて押しかけていた。
◆アトラクションその一:【ロイヤル浄化プール(王室専用・肥溜め)】
「皆さま、こちらをご覧くださ〜い。ただいま華麗な“糞掘りショー”を披露しているのが、先代国王陛下で〜す!」
やる気ゼロの顔を必死に作り笑いで上塗りしたシルヴィが、拡声器を片手に案内する。
巨大な汚水槽の中で、グールと化した元国王が、涙を流しながらスコップを振るい続けていた。
「いいぞ、もっと掘れ!」
腹の出た成金が、興奮のあまり金貨を一枚放り投げる。
「これは、お前が昔うちの鉱山を横取りした分の“おひねり”だ! 有難く受け取れや!」
「俺も投げる!」
庶民たちも負けじと、石ころ、腐りかけた野菜、腐敗した卵を次々と投げ込む。
元国王は、働きながら殴られ、殴られながら掻き出す。うめき声を上げれば上げるほど、観衆のボルテージは上がっていく。
◆アトラクションその二:【貴族コロッセオ】
こちらはVIP専用エリアだ。
怪物に変わった数百人の“元貴族”たちが、鎖に繋がれたまま、巨大な石を背負ってトラック競争をさせられている。
「一回十万ゴールドで、我が楽園の“スーパーヴィIP”になれますわよ〜!」
ウサ耳バニーガール衣装に身を包んだカミラが、高台から鞭を片手に、妖艶な声で叫ぶ。
「VIP特典:もっとも憎い“元貴族”をお一人お選びいただき――ご自身の手で三鞭までお試しいただけます♡」
「十万払う!」
「俺も! あの多腕のヤツ、元税務官だろ! あいつだけは許さねぇ!」
場内は一瞬にして阿鼻叫喚の狂喜に包まれた。
かつて税を搾り取り、権力を振りかざしていた支配者たちが、今や庶民のストレス解消グッズと化している。商人たちは怒号と笑い声を上げながら、競うように札束を積み上げていった。
監視室では――
金牙会長が、収益モニターに映る数字のカウンターが、目にも止まらぬ速さで跳ね上がっていく様子を見て、頬の肉を震わせながら笑っていた。
「天才だ……! こいつは天才だ! こんなの、動物園じゃねぇ。印刷機だ、金貨を刷る機械だ!」
だが、彼は気付いていなかった。
向かいの椅子で、リンがモニターではなく、VIPラウンジで散財している富豪たち――その中でも、とくに黄金連邦の会員たちを眺めながら、静かに口元を吊り上げていることに。
「笑っておけよ、金牙会長。」
リンは心の中でつぶやいた。
「今、ここに流れ込んでいるカネは――すぐに、あなた自身を撃ち抜く弾丸に変わる。」




