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第二十三話 強制課金お断り!二百万人の「返金申請」

(場所:王都中央広場)


 黒い波が迫っていた。


漆黒の両目に、紫の血管が肌一面に這い回る――二百万の「傀儡市民」たち。


彼らはゾンビのようなうめき声を上げながら、高台のある広場の中心へと雪崩れ込んでくる。




理性はない。


あるのは「王」への絶対服従と、目の前の生き物をすべて引き裂きたいという、原始的な殺意だけだ。


「ハハハハハ! リン! 見えるか!」


顔中血まみれの国王が高台の上に立ち、両腕を広げて、人間の地獄絵図を見下ろしながら狂ったように笑っていた。


「こいつらは全部、お前の“同類”だ! お前が守ろうとした弱者だぞ!


 今、その弱者たちがお前の肉を喰い、お前の血を啜ろうとしている!


 さあ、殺せよ! やってみろよ!」


これは確かに、詰んだ局面だった。


反撃すれば、それは「民衆虐殺」だ。リンは一瞬で極悪人にされる。


反撃しなければ、今度は自分が生きたまま喰いちぎられる。


だが、空を覆うほどの悪意を前にしても、リンはただ白衣についた埃を軽く払うだけだった。


その眼差しには恐怖はなく――ただ、粗悪品を見たときのような、冷淡な嫌悪だけが浮かんでいる。


「アリス。」


リンは淡々と口を開いた。


「はい、管理者。」


背後のS級機娘アリスの瞳に、青い光が瞬く。


膨大なデータの奔流が、彼女の身体の周りを渦のように巡った。


「この“ユーザー”たちの精神状態を解析しろ。」


「解析完了。」


抑揚のほとんどない、機械的な声が響く。


「対象群体の大脳皮質は『黒薔薇胞子』に寄生され、『強制催眠』状態にあります。


 しかし、深層意識領域では強烈な拒絶反応を検出。


 要約すると――彼らは人を殺したくない。助けを求めています。」


「上出来だ。」


リンは眼鏡を押し上げ、血塗れの国王に向かって冷やかな笑みを浮かべた。


「国王陛下。あなた、“プロダクトマネージャー”としては失格もいいところだ。」


「ユーザーが望んでいない“マルウェア”を、力づくでインストールしている。


 今から私は、この二百万人のユーザーを代表して――あなたに“強制返金”を要求する。」


リンは指を鳴らした。


「アリス、全周波数でブロードキャスト。


 プラン【全域・精神ロールバック(System Rollback)】、起動。」


ブゥン――。


機娘の背から六枚の機械翼が一斉に展開される。




目には見えない、だが魂を貫く高周波の精神波が、広場を中心に一瞬で王都全域を覆い尽くした。


それは攻撃魔法ではない。


――“リンの声”そのものだった。


その声は、聴覚を飛び越え、支配された傀儡たちの脳髄の奥深くに直接叩きつけられる。


『よく聞け。お前たちは、この国に何も借りていない。


 ――起きろ。』


まるで世界全体の「再生ボタン」が一斉に押されたようだった。


突撃していた二百万のゾンビたちが、ピタリと動きを止める。


狂気に歪んでいた顔に、徐々に戸惑いの表情が浮かび始めた。


やがて――


瞳を満たしていた漆黒が、すうっと引いていく。


皮膚の上を這っていた紫の血管が、潮が引くように消え失せた。


先頭を走っていた鉄工職人の男は、握りしめていたハンマーを「ガラン」と落とした。


自分の手を見つめ、高台の上で怯えきった国王を見上げる。


記憶が、津波のように押し寄せた。


「お、俺は……何をしてた……?」


「さっきまで……俺、人を殺そうとしてたのか?」


「違う……あれは――あれは王様だ! 王様が無理やり、あの花を吸わせたんだ!」


重苦しい沈黙。


死んだような静寂のあと――爆発したのは、怒りだった。


「金返せぇえええ!!」


誰かが叫んだ。


次の瞬間、二百万人が、鼓膜が破れそうな怒号をあげる。


足元の石ころ、腐りかけた野菜、脱げた靴……掴めるものは何でも、暴君のいる高台へと投げつけた。


「や、やめろ! そんなはずはない!」


頭を割られた国王が、必死でリモコンを連打する。


指の骨が折れようと、お構いなしだ。


だが、先ほどまで命令一つで跪いていた傀儡たちは、もはや彼のために動こうとはしない。


むしろ、今この瞬間――どれほど残酷な方法で八つ裂きにしてやろうか、それだけを考えていた。


「跪けぇ! 私は神だぞ! 跪いて、崇めろ!!」


返ってきたのは――


彼の口元にジャストミートした、ビンテージ物のレンガ一丁だった。

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