第一百三十八話:買収と転換!「深淵寺院、爆誕」
(場所:第13区・サイバー禅宗 深淵分寺)
一ヶ月後。
かつて恐れられた機械神教本部は、リンに丸ごと買収され、
史上もっとも狂った産業転換を遂げていた。
元“機械真理聖殿”の看板は、金色ネオンへ置き換わる。
【サイバー禅宗・深淵分寺】
【Slogan:血肉苦弱? いいえ、功徳飛升!】
中へ入ると、地獄みたいに調和している。
ホログラム香火が漂い、梵音アレンジの電音BGMが流れる。
両脇では、かつて終結者モデルだった機械僧侶が黄色の袈裟を纏い、
磁気浮遊座布団の上で胡坐を組む。
片手でサーバーメンテ、片手で電子木魚を叩く。
「チン……チン……チン……」
清澄な音が連なり、第13区で最も奇妙な風景線になった。
【新規ビジネス、全宇宙で爆売れ】
リンは大殿中央で、元ハッカーたち(営業)に顧客対応をさせていた。
行列は長い。
業務①【電子超度(Data Exorcism)】
“社会的死”が怖い者向け。
キャッチコピー:
「粉身砕骨しても怖くない、清白を世に残せ」
内容:
心停止の瞬間、AI高僧が全デバイスへ遠隔侵入。
全ストレージを完全初期化、物理破砕、閲覧履歴と隠しフォルダを抹消。
死んでも清廉、名誉は守る。
料金:999スターコイン/回。
業務②【サイバー占い(Big Data Fortune)】
迷える若者向け。
内容:
全網ビッグデータ+量子算法で恋愛運を算出。
“いつまで独身か”を秒単位で提示。
リン:
「迷信じゃない、アルゴリズムだ」
「施主、お前の桃花コードはバグだらけだ」
「金を積め、修理する」
業務③【機甲開光(Mecha Consecration)】
星間船長・操縦士向け。
内容:
零一住職が直々に開光。
船体に“出入平安”符(微小力場発生器内蔵)を貼り、
エンジンへ《般若心経》コードを刻む。
効果:
“隕石が来ても勝手に避ける”らしい(※実態は補助操縦)。
大殿奥。
かつての大司教、いまや零一住職が巨大掘削機の開光をしている。
電子眼には慈悲が宿り、柳枝で“聖水(防錆油)”を撒く。
「コードにバグなきこと」
「サーバーの落ちぬこと」
「南無阿弥陀仏」
リンは高所の手すりでそれを眺め、口座の入金通知「ピコン、ピコン」に満足して茶を飲む。
「ほらな」
「これが科技と人文の完璧な融合だ」
「思想が滑らなければ、手段はいくらでもある」
「反派は殴り合いしか出来ない? ――功徳(稼ぎ)で救えばいい」
そのとき。
リンの私人端末に、最優先の暗号通信が弾けた。
連邦でも既知星系でもない。
背景は、ピンクのノイズ雪。
「ジジ……ジジ……」
画面が数回点滅し、強制的に切り替わる。
冷たいSFUIが、突然――少女漫画の吹き出しに変わった。
薔薇の花びらエフェクト。
BGMは砂糖みたいに甘い恋愛ループ。
【SYSTEM:『愛神次元』より挑戦状が届きました】
リンが固まる。茶杯が半空で止まる。
「……何だこれ」
「愛神次元? 俺の防火壁……抜かれた?」
画面にシルエットが現れる。
完璧なプロポーション。キラキラの“きゅん”エフェクト。
声は骨が溶けるほど甘い。
「リン・アドラー……」
「全宇宙で最も硬い鋼鉄直男……」
「私は――【純愛女神・アフロ】」
「ずっと見ていたわ」
「天使をメイドにし、古神をペットにし」
「機械を坊主にした男……」
「ロマン細胞ゼロの怪物」
「“愛”を代表して、あなたを修正する!」
「三日後」
「あなたの第13区を――全宇宙最大の【乙女恋愛ゲーム】ダンジョンにするわ」
「私と、燃える恋をしない限り」
「クリアは不可能よ」
通信は切れた。
画面にはピンクのハートだけが残り、
空気にはいつの間にか香水の匂いが漂っている。
リンの顔が、初めて“千軍万馬より深刻”に歪んだ。
「恋愛ゲーム……?」
全身に鳥肌が立つ。
リンは心底嫌そうに震えた。
「……古神降臨より怖い」
「アリス!」
「全員、レベル1警戒!」
「“反・恋愛脳”兵器を準備しろ!!」




