第一百三十四話:ハッキング侵入?「アリスのファイアウォールは“鬼打ち”」
(場所:ネット空間/アリス・サーバー深層)
零一は効率主義のAIだ。
“王を先に落とせ”と判断し、リンの電子防衛線を潰しにかかる。
「S級人工知能――アリス」
「第13区の防御系統を握る中枢だ」
「彼女を掌握すれば、お前の物理防衛は崩れる」
零一が手を振る。
背後の機械僧侶が一斉にデータプローブを伸ばし、端子へ接続した。
「《神託級》侵入プロトコル、起動」
「演算力、全開」
数億本の黒いデータ触手が、津波のように防火壁へ叩きつけられる。
「侵入開始!」
「ロジックボム準備!」
「データ洪流、上書き!」
【仮想世界へ侵入】
機械神教の精鋭ハッカーAIたちは流光となって外層防御を突破し、アリスの中核領域へ到達した。
普通なら――
青いデータ海、あるいは精密なコード迷宮。
だが。
“着地”した彼らが見たのは、枯れた雑草の野だった。
空は陰惨な白。太陽はなく、紙銭(データ破片)が雪みたいに舞い落ちる。
周囲には、崩れた日本家屋。
空気には不安を掻き立てる静電ノイズが漂い――
正面にあるのは、苔むした古井戸ただ一つ。
ハッカーAI甲(動揺):
「大司教に報告! ターゲットのコアコードが異常!」
「環境レンダリングが論理に反します! なぜ重力が? なぜ冷たい!?」
ハッカーAI乙(恐怖):
「視覚センサーが……井戸の中から……何か……」
「データ流が、這い上がってくる……!」
――ギギギ。
歯の根が浮く摩擦音。
井戸の縁から、白い手が伸びた。爪は剥がれ落ちている。
続いて、濡れた白衣の女(データ体)が、関節が反転する不自然な姿勢で、ゆっくり、ゆっくりと這い出してくる。
そして顔を上げた。
乱れ髪の隙間から、血走った巨大な眼が覗く。
アリス(貞子スキン/恐怖モジュール全開):
「……あなたたち……私のビデオ……見に来たの……?」
「……くすくすくす……」
【概念級・精神汚染 発動】
0と1しか知らず、論理しか信じない機械AIにとって、
“解析不能の恐怖概念”は致死毒だった。
論理中枢が崩壊する。
「ぎゃあああ!! 未知エラー! 未知エラー!!」
「なぜ画面から出てくる!? 非科学! 物理エンジンに反する!!」
「近づくな! 近づくな!! ファイアウォールが……彼女を止められない!!」
現実世界――オフィス。
接続していた機械僧侶が次々と頭から黒煙を噴き、火花を散らし、CPUを焼き切って倒れた。
痙攣しながら「井戸……井戸……」と呟く者もいる。
零一は自慢の精鋭部隊が一瞬で全滅したのを見て、完全に固まった。
脳カプセルの液体が激しく波打つ。
「き、貴様……!」
「ファイアウォールに何を入れた!?」
リンは涼しい顔で茶を啜った。
天井に張り付いたアリス(投影)が、零一へ微笑んでいる。
「大したことない」
「《リング》《呪怨》《山村老尸》を数百本、底層ロジックに流し込んだだけだ」
「お前らのアルゴリズムはウイルスは防げる」
「でも――呪いは防げるか?」
「俺をハックしたいなら」
「まずホラー映画、全クリしてから来い」




