第一百三十二話 深淵の天国、開業!――「いらっしゃいませ、ご主人様❤」
(場所:第13区・Angel Beatsテーマクラブ)
――一か月後。
第13区で最も賑わう通りに、
高級クラブ【Angel Beats】がグランドオープンした。
巨大なネオンサイン。
「天使に奉仕される感覚を味わいたい?」
「今夜――天国が深淵に降る」
入口には、かつて天上で尊大だった六翼天使たちが並ぶ。
背中に穴の開いた黒白メイド服。
翼は丁寧に梳かされ、誘惑的な柔光を放つ。
裸足ではない。
白いストッキングとハイヒールを履かされていた。
「い……いらっしゃいませ……」
「ご……ご主人様❤」
天使たちは顔を真っ赤にし、羞恥で死にそうになりながらも、
太ったオタク、ゴブリン富豪、宇宙成金に向けて――職業スマイルで頭を下げた。
およびガブリエル。
かつての大審問官は、今や【店長兼No.1】である。
最高級のメイド長制服。
トレーを持ち、歯を食いしばり、目尻に涙を溜めてリンへ差し出す。
「こ……こちら……」
「オムライスです……ご主人様……」
「……お、美味しくなる魔法を……お望みですか……?」
(羞恥が臨界突破)
「も……萌え、萌え……きゅん❤」
VIP席で、リンは“本物の聖水”を飲んでいた。
――ただのソーダだ。
満足げに頷く。
「ほら。これが資源の最適配置だ」
「以前は高みにいて、誰も見向きしない」
「今は頭を下げて、人気爆発」
「全宇宙が『天使に奉仕されたい』」
「ガブリエル」
「君の信徒、昔の百倍だ」
「感謝すべきだろ」
ガブリエルはトレーを握り潰しそうになった。
「……殺して」
「地獄の方がマシ……」
リンは笑う。
「地獄より刺激的だ」
「ここは資本の深淵だからな」
そのとき。
VIPルームの扉が開いた。
特殊な客が入ってくる。
皮膚はなく、全身が冷たい機械義体。
生体組織が残るのは脳だけ。透明な頭蓋の中で青い光が点滅している。
背負う武装した機械修道士の一団。
【機械神教・大主教・ゼロワン(01)】
大主教は注文もしない。
電子合成音で冷たく告げた。
「リン」
「生物および神学――時代遅れだ」
「血肉は脆弱」
「機械へ昇華せよ」
「連邦議会は《全民機械化法》を可決した」
「第13区は最初の“強制改造”モデル地区だ」
「肉体を差し出せ」
「鋼鉄を抱け」
リンは聖水を置き、目を細めた。
「機械昇華?」
「俺の縄張りで強制立ち退きってか?」
「アリス」
「この鉄皮缶に伝えろ」
「前に俺の家を壊そうとした古神は――」
「今、厨房で皿洗いしてる」
「前に俺を裁こうとした天使は――」
「今、俺に料理を運んでる」




