第一百二十八話 信仰戦争!――「聖歌より配信」
(場所:全宇宙ネット空間)
武力威圧が通じない。
熾天使族は、もっとも得意な攻勢に切り替えた。
――世論戦(洗脳)だ。
神聖帝国は銀河最大のメディアを握っている。
その夜。
全宇宙のスクリーンが強制的に切り替わり、統一放送が流された。
タイトルは――
『聖女受難記(※捏造)』
映像はこうだ。
薄暗い牢獄。
グラは檻に閉じ込められ、ボロ布を纏い、虚ろな目をしている。
リン(替え玉役者)が鞭を振るい、
カビた飯を無理やり食わせている。
BGMは心が裂けるほど悲痛な聖歌。
ナレーションは涙声だ。
「救ってください……女神を……」
効果は抜群だった。
信徒が暴徒化し、
無数の宇宙船が第13区へ殺到する。
「悪魔リンを倒せ!」
「女神を救え! 遠くとも必ず討つ!」
第13区の防火壁は、怒りの唾液で溺れかけた。
黒リンは画面いっぱいの罵倒を見て、走り回る。
「終わった! 民意が敵だ!」
「全国民公敵になった!!」
だがリンは、映像を眺めて鼻で笑った。
「脚本は悪くない」
「演技が大袈裟すぎるけどな」
「世論戦をやる?」
「天上住まいの鳥人が、流量の鍵を分かるか?」
リンは指を鳴らした。
「アリス、【グラの爆食配信チャンネル】起動」
「全ハッカー衛星、動員」
「全宇宙――強制ポップアップだ」
【配信開始】
そこに檻はない。鞭もない。
あるのは――
山のようなジャンクフード。
ハンバーガー、フライドチキン、コーラ、ピザ。
および――何トンものラー条。
グラはその山の頂上に座り、
あのメイド服で、幸福そうにむしゃむしゃ食っていた。
「がおっ! このチキンうまい!」
「リンお兄ちゃんが今日は食べ放題って!」
「げふ~」
左手に鶏、右手に鴨。
口元は油でテカテカだ。
さらに彼女はカメラへ向かって――
2リットルのコーラを一気飲みし、
「げぇぇぇっ」
盛大な満腹ゲップをかました。
リン(画外音)が、淡々と追い打ちをかける。
「グラ。教会の人たちが迎えに来るってさ」
「向こうじゃ“聖餐”が出るらしい」
「露と空気だけど」
グラが瞬時に護食モードに入る。
「やだ!! 帰らない!!」
「向こうご飯ないもん!! 死ぬ!!」
「リンのとこが天国!!」
――世論が、ひっくり返った。
信徒たちは、
口元ベトベトで、神性ゼロで、
チキンのために転がりそうな“女神”を見て、
価値観が粉々に砕け散った。
「……これが女神……?」
「受難って何だったんだ……」
「この一食、俺の一年分の生活費じゃ……」
だが次の瞬間。
“通りすがり勢”が一斉に流れ込む。
「神聖じゃないけど……可愛い!」
「リアルな爆食女神、推せる!」
「投げ銭したい! 投げ餌券どこ!?」
「ガブリエル嘘ついてるじゃん」
「受難じゃなくて豪遊だろこれ!」
【幻鏡ライブ・コメント欄】
「ガブリエル:苦しんでる! 古神:幸せ!」
「聖餐=風を吸うだけ、そりゃ帰らん」
「飯さえ出せば神すら裏切る」
「リンの“実写証拠”がエグすぎる。教会の顔面破壊」




