第一百二十七話 天使降臨?――いいや、「違法占道の鳥人」だ
(場所:第13区・深淵生物テクノロジー本社ビル・屋上)
太陽がまぶしい午後だった。
第13区はスライム危機をようやく乗り越え、戦後復興の景気に沸いている。
リンは屋上のビーチチェアに寝転び、サングラスをかけ、手にはキンキンに冷えた“幸せ炭酸”を持っていた。
隣では、暴食女王グラが地面に這いつくばり、
まるで掃除機みたいに――第13区に積み上がった数万トンの期限切れラー条在庫を吸い込んでいる。
「おいしい……ずるる……おいしい……」
そのとき。
空が裂けた。
ぶおおおおお――ッ!!!
神聖で荘厳で、ガラスを割る勢いのパイプオルガンが轟き、
金色の雲が両側へ押し退けられる。
太陽光は、さらに眩い“聖光”に塗り潰された。
純白の浮遊艦隊が、ゆっくりと降りてくる。
形状は――ゴシック大聖堂の尖塔そのもの。
無数の白ローブ、背中に翼を持つ存在が空を旋回し、
飛びながら羽毛と金粉を雨のように撒き散らしていた。
【銀河神聖帝国・熾天使艦隊】
先頭には――
六枚の巨大な光翼を持ち、視網膜が焼けるほどの聖光を放つ“大天使”がいた。
裸足で宙に浮き、金の長髪を滝のように垂らし、
目には「下界のゴミを見る」慈悲と憐憫が宿っている。
【熾天使長/大審問官・ガブリエル】
ガブリエルは上空から【神言術】を発動。
その声は、あらゆる者の脳内で爆発した。
「罪深き者よ、聖光の前に震えよ!」
「我は神の剣、ガブリエル!」
視線が群衆を掃き、および――
指先の赤油を舐めているグラへと、ぴたりと固定された。
次の瞬間。
ガブリエルは急に“劇場モード”に入った。
胸に手を当て、目に涙を滲ませ、
まるで誘拐されていた実の娘を見つけた母親のように叫ぶ。
「聖女さまぁぁぁ!! おいたわしや!!」
「この穢れた悪魔があなたを監禁し!」
「添加物まみれのゴミ食品を食わせ!」
「その上、その……恥知らずな黒白メイド服を……!」
「なんたる冒涜!!」
燃える聖剣がリンへ突き付けられ、刃先から炎が噴き上がる。
「リン・アドラー! 神の名において貴様を裁く!」
「貴様の罪状は――【神の不法監禁罪】!」
「および【聖潔冒涜罪】!」
「今すぐ聖女を解放し、跪いて悔い改めよ!」
「さもなくば、この聖火が罪深きスラムを浄化する!!」
――場が凍りついた。
第13区の住民は神威に震え、すでに跪く者もいた。
だが。
リンは、懐からもう一枚サングラスを取り出して、すっと装着。
椅子からすら立ち上がらない。
「……どこの鳥人だ?」
「光害、基準値超えてるの分かってる?」
リンは横の拡声器を掴み、空へ向かって叫んだ。
「おーい! 裸足のやつ!」
「ここ私有地だぞ。飛行禁止区域!」
「さっき撒いた金粉と羽毛な」
「高所投棄だ。景観と衛生に重大な悪影響」
「アリス。清掃費、計算」
「この鳥人小姐に罰金の請求書、切っとけ」
ガブリエルが固まった。
彼女は無数の悪魔を裁いてきた。
誰もが泣き崩れ、許しを乞うた。
――罰金を切られたのは、人生で初めてだった。
「わ……私を鳥人だと?」
「私は熾天使だ!!」
【幻鏡ライブ・コメント欄】
「演出すげぇw 予算燃えてる!」
「ガブリエル:裁きに来た リン:請求書切りに来た」
「グラ:行かない! ここラー条が飲み放題!」
「空の鳥人は全然おいしくなさそう」
「リン:天使でも鳥人でも、入場料と駐車料金は払え」




