第一百零九話:バトロワ開幕? いいえ、“無免許診療”の現場です【補足回/時系列上は第一百零九話】
(場所:ミラー地球・第1層:スクラップ闘技場)
不安定な位面転移ゲートをくぐった瞬間――リンエン、竜王、サマエルの三人は、錆びた鋼鉄の瓦礫へ容赦なく叩きつけられた。
空気は濃い。血の匂いと機械油の匂いが、肺の奥に貼りつく。
空には巨大な赤いホログラムのカウントダウンが浮かんでいた。
【『無限死闘場』へようこそ。】
【現在エリア投下人数:100名。】
【クリア条件:生存者1名。その他全員、抹消。】
周囲には平行宇宙から流れ着いた亡命者、変異怪物、あからさまにヤバい連中がうようよ。
放送が終わった瞬間、殺戮が一斉に弾けた。
「死ねええ! 生き残るのは俺だけだ!」
「リンエン! 俺らもやろうぜ!」サマエルが地獄火を燃やして目を輝かせる。「こんな雑魚、三分で皆殺しだ!」
「頭を使え、サマエル。それは野蛮人のやり方だ」
リンエンはコートの襟を整えると――武器を抜くどころか、空間指輪から白い机、ふかふかの椅子、そして巨大な横断幕を取り出した。
戦場で一番目立つ高台に陣取り、横断幕をドーン。
【深淵救急:切断・骨折・躁状態・システム障害に効く。初診無料、再診は首で(文字通り)。】
「グオオオ!」
血走った目の電ノコ狂が突進してきた。全身に錆びた刃を刺し、手の電ノコを唸らせている。
「内臓をよこせええ!!」
「動くな」
リンエンは椅子に座ったまま、指を一本すっと上げただけ。
「その電ノコの異音……ベアリングが摩耗して振動が過大」
「それに、お前の振り下ろし――右肩の固さ。重度の【肩関節周囲炎】に【機械神経痛】の併発だろ。雨の日は痛すぎて死にたくなるタイプだ」
電ノコの刃先がリンエンの鼻先で止まった。
狂の血眼が、ぽかんとする。
「え……? おま……なんで分かる?」
「サマエル、物理麻酔(気絶)」
サマエルが一発ビンタで叩き落とす。
リンエンは白手袋をはめ、レンチと“正骨水”を取り出した。
「カチッ」
錆びたベアリングを交換、肩の亜脱臼を十秒で整復。
狂が目を覚まし、腕を回す。
「……え、痛くねえ!? マジで痛くねえ!! しかも電ノコ、前より倍速で回ってる!!」
狂は感動で涙目になり、ドサッと膝をついた。
「神医だ……! 俺の肩、三年だぞ!? 殺す気力すら出なかったんだ!!」
――三十分後。
残酷なバトロワ現場は、完全に“大型無料診療所”になっていた。
参加者99名がきっちり整列し、リンエンの診察を待っている。
【システム放送:警告! 生存人数100人? 死亡者ゼロ? ロジックエラー!】
大門がゆっくり開く。
リンエンは“完治”して、しかも全員フル武装の手下99名を引き連れ、堂々と出口へ進んだ。
「ルールは『生存者1名』? いや――俺のルールは『全員回復、PT組んで周回』だ」




