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第一百一十五話 開飯だ! 第一皿は“麻辣爆炒・古神の触手”

 (場所:鏡像宇宙・王座テラス・臨時キッチン)


 空が、完全に壊れた。

 亀裂なんて生易しいものじゃない。

 蒼穹そのものが、鏡みたいに粉々に砕け散った。

 【喰らい尽くす者(The Devourers)】の本体――

 月より巨大な、血走った“眼球”が、次元の壁を文字通りねじ破って押し出てくる。

 直径が千キロを超える紫黒の触手が、滅亡の隕石雨のように落下し、理性をゼロにする精神の悲鳴を撒き散らしながら地上へ叩きつけられた。


 「……飢え……喰う……万物、帰零……」

 古神由来の精神圧だけで、瓦礫の地面が勝手に崩解していく。


 ――だが。

 王座テラスだけ、絵面が完全に別世界だった。


 「飢えてるのはこっちだっつの! 俺も腹減ってんだよ!!」

 林恩は、メスから変形した全長四十メートルの“精神力・大包丁”を握っていた。

 その眼の貪欲さは、古神より純粋だった。


 「ベルゼブブ! 寝てんじゃねえ! ヘイト固定!」

 「ゴォォ――!!」

 暴食魔王・ベルゼブブが咆哮し、身体が膨張する。

 それは天を覆う深淵の巨口と化し、落ちてきた最太級の触手に噛みついた。

 「むぐぐぐ!(……この歯応え、強靭ッ!)」


 「龍王! 切り分け担当!」

 バハムートが金色の残光になる。

 龍爪が空中に刃の嵐を描いた。

 ザザザッ――!!

 暴れ続ける触手が、一瞬で均一な薄切りに。

 断面は透明感すら帯び、まな板の上でまだ本能的に跳ねている。


 「“核弾を売る少女”! 最大火力! 爆炒だ!」

 「了解だよ、お兄ちゃん!」

 少女は、ミニ恒星内蔵の“核融合こたつ”を抱え、出力を限界まで押し上げた。

 ドンッ!!

 恐怖の高温が触手の水分を封殺する。


 林恩は狂った指揮者みたいに、空間リングから――

 第13区ブラックマーケット特供の【地獄デビルチリ】と【深淵特製クミン】を、丸ごと一トン引きずり出した。

 「いけッ!」


 ジャァァ――――!!!

 スパイスが灼熱の油脂に触れた瞬間、

 真空すら突き抜けるレベルの香りが爆発した。

 古神の生臭さも、場の恐怖も、全部ぶん殴って上書きする。


 「一口目は俺のだ」

 林恩は念動で、トラックサイズの肉塊を持ち上げる。

 吸盤がまだ蠢いているのも無視して、そのまま口へ放り込んだ。

 もぐ、もぐ、もぐ……


 ――沈黙。

 天の眼球すら固まった。

 巨大な瞳に、“困惑”という感情が走る。


 「……ごくん」

 飲み込んだ直後、林恩の顔が恍惚の紅に染まる。

 全身の毛穴から、ピンク色の高エネルギー蒸気が噴き出した。

 「この食感……弾力! つるっつる!」

 「吸盤を噛み破る瞬間、億万年分の暗黒物質エネルギーが口内で爆ぜる!」

 「極上だ……宇宙A5の食材!! ドラゴンの尻尾の一万倍うめえ!」


 林恩は皿を、呆然としている黒林恩へ差し出した。

 眼は狂信者のそれだ。

 「食え!」

 「食えば、もう怖くなくなる!」

 「これが“食物連鎖の絶対支配”だ!!」


 【幻鏡ライブ・コメント欄】

 [ ???古神が鉄板焼きになってる…… ]

 [ クトゥルフ:こんな屈辱ある??警察呼べ!! ]

 [ SAN値が削れるのに腹が減るんだが?? ]

 [ 林恩:風韻がある(=うまい) ]

 [ 黒林恩、食った!!顔が!!“美味に堕ちた表情”してる!! ]

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