第一百一十四話:王座の黒リンエン!「今夜、火鍋な」
(場所:ミラー宇宙・最高王座)
――クリア。
リンエンが最後の扉を押し開ける。
零は巨大なデータ抽出装置に拘束され、瞳から光が消えていた。
黒リンエンは王座に座り、ワイングラスを揺らす。
リンエンを見る眼に怒りはない。ただ、死水みたいな冷淡さだけがある。
「お前は俺の副本をめちゃくちゃにした」
「部下まで狂わせた」
「だが結末は変えられない」
【真相】
黒リンエンが手を振ると、背後の壁が透明になった。
宇宙の深奥。星空が――消えている。
代わりに、無数の巨大で形容不能な紫黒の触手。
それらはストローのように惑星へ突き刺さり、地核のエネルギーを貪っていた。
【吞噬者(The Devourers)・旧支配者級】
「見えるか? この宇宙はもう終わりだ」
黒リンエンの声は、深い疲労と絶望を帯びる。
「俺がこの残酷な生存ゲームを作ったのは、虐殺のためじゃない」
「最強の魂を選別するためだ」
「選別した魂を“吞噬者”に喰わせ、上納金として払う」
「それで、この宇宙を数日延命する」
「――トロッコ問題だ。少数を犠牲に多数を救う。俺は必要悪だ」
恐るべき圧が降りる。
吞噬者がリンエンたちの存在に気づいた。
「……飢え……」
魂を粉砕する精神波が走る。
惑星より巨大な口が無数に開き、触手の吸盤がくっきり見える。
吐き気を催す生臭さ。絶望。
竜王ですら震えた。
「……概念級の怪物? 物理も魔法も無効……?」
――だが。
リンエンは触手を見上げて、怖がるどころか……ごくり、と唾を飲んだ。
眼鏡を押し上げる眼が変わる。怪物を見る眼じゃない。
“トップシェフがA5和牛を見た眼”だ。
「上納金?」
リンエンはコートのボタンを外し、袖をまくり、首にナプキンまで巻いた。
「格が小さいぞ、もう一人の俺」
「お前が絶望するのは――『広東の料理本』を知らないからだ」
「俺の故郷ではな」
「こういう“肉質が良くて”“エネルギーが濃い”ものを――天災とは呼ばない」
「――“ジビエ”って呼ぶ」
リンエンは振り返り、暴食魔王、核爆弾売りの少女、竜王に指示を飛ばす。
「ベルゼブブ! 胃袋を全開にしろ! 刺身級のタコ足が無限だ!」
「お嬢ちゃん! 核融合こたつの出力を最大! 鍋を沸かすぞ!」
「竜王! 切れ! その触手、透ける薄さのスライスだ!」
リンエンの手のメスが伸び、巨大な包丁に変わる。
「お前ら! 鍋を組め! 火を起こせ!」
「今夜は――クトゥルフ火鍋だ!!」
黒リンエンのワイングラスが「パシャン」と床で砕けた。
完全理性のCPUが、焼き切れた。
「……狂……狂人……お前、神を食う気か……?」




