第一百一十二話:ルール怪談? 俺は“労働基準監督署”だ
(場所:第4層:深夜ホラー病院)
第四層は純度100%の心霊・ルール系ダンジョン。
陰鬱な廊下、青白い照明、壁一面の血手形。
空気にはホルマリンの匂い。
壁の血文字ルール(違反=即死):
1. 「振り向くな」
2. 「看護師が薬を渡したら必ず飲め」
3. 「赤い服の怨霊を見たら跪け」
竜王が二歩進んだ瞬間、首筋に冷風。
氷みたいな手が肩に置かれる。
「……ふり……むけ……」
竜王は鱗を逆立てた。
「無理だ! 物理耐性はあるが、これは精神汚染だ! 俺、幽霊が一番怖い!」
「何が怖い? 幽霊だって法は守れ」
リンエンが冷笑し、金縁メガネを掛ける。
左腕には、真っ赤な腕章。
腕章の文字は、日本の社畜とブラック経営者を震え上がらせるあの六文字。
【労働基準監督署(特別監察)】
リンエンは手帳を開き、恐喝しに来た赤衣の女幽霊の前に立った。
「おい赤服! いま何時だ!」
女幽霊は悲鳴を上げるつもりが、逆に凍った。
「……り、凌晨二時……」
「午前二時に廊下を漂ってる? 残業代は出てるのか?」
リンエンは筆を走らせ、容赦なく記録する。
「重大な長時間残業! 深夜手当ゼロ!」
「作業環境:暗い・湿気・安全基準違反!」
「床を這ってる? 労災リスク! 減点!」
女幽霊は呆然。死んで何年も経つのに、残業代の話をされたのは初めてだ。
悔しさで泣きそうになる。
「……で、出てない……」
リンエンは隣の、盆を持った鬼看護師を指差す。
「お前も! 強制投薬? それ職場いじめだ」
「薬剤師資格は? 出せ。ない? なら無免許だ。違法診療!」
「院長(鬼王)はどこだ。出せ!!」
リンエンが院長室の扉を蹴り開ける。
中で震える鬼王を指差し、官威で押し潰す。
「労基法第三十六条に基づき――お前は亡霊職員を重大に搾取している」
「賃金未払い三百年! 休暇制度なし!」
「罰金、特大。即刻、業務停止。全怨霊は“有給休暇”を取れ!」
“行政執行”の恐怖は、心霊ホラーを一瞬で上書きした。
生前社畜だった幽霊たちにとって、道士より労基のほうが一万倍怖い。
――十分後。
ダンジョン画風、崩壊。
恐怖病院は“衛生大掃除”現場へ。
怨霊たちは血涙を流しつつ、モップで床を磨き、女幽霊は窓を拭きながら叫ぶ。
「督察ありがとう! 残業代返ってきた! リンエン督察、青天の大人!!」
[幻鏡ライブ弾幕]
[ 官威が強いと、幽霊もビビる。 ]
[ 物理退魔より行政退魔のほうがエグい。 ]
[ 怨霊:死ぬほど辛い…リンエン:社畜の方が辛い。残業代ゼロ分かる? ]




