第一百一十一話:ゾンビ包囲? いいえ、“ゾンビアイドル出道現場”です
(場所:第3層:バイオ危機・尸潮都市)
第三層。ここは地獄。
Tウイルス感染の変異ゾンビが、数百万体――街を埋め尽くして彷徨っている。
ルール:無限の尸潮の中で24時間生存。
「グオオオ!」
生者を察知した尸潮が、津波のように襲いかかる。
しかも、遅いゾンビじゃない。
百メートル走の速度で突っ込んでくる変異体だ!
サマエルが斧で一群を薙ぎ倒す――が、次の一群が即座に押し寄せる。
「リンエン! 多すぎる! キリがねえ! ここで消耗死する!」
竜王がブレスを吐き、数百体を焼き焦がす。
だがゾンビは仲間の死体を踏み台にして、さらに這い上がってくる。
リンエンは廃バスの屋根の上。攻撃はしない。双眼鏡で街全体を観察していた。
「……待て」
リンエンが目を細める。
「この路面振動の周波数……走行ピッチ……」
「脳は壊れてるが運動神経は生きてる」
「それに、“音”と“震動”に対する生理反応が異常に強い」
眼鏡を押し上げ、プロデューサーの職業スマイル。
「こいつらは人を食いたいんじゃない」
「重度の“運動協調障害”。要するに――リハビリが必要だ」
「殺しきれないなら……その場でデビューさせる」
「アリス! 全市の放送網を乗っ取れ!」
「スピーカーを立てろ! 最大出力!」
「BGM用意! BPM最速、毒性最強のオタク神曲だ!」
音楽、起動――
『もってけ!セーラーふく』
リンエンがマイクで号令を叩きつける。
「よーい! 左手! 右手! 回れ! ウィンク!」
奇跡が起きた。
凶悪な百万尸潮は、高周波の毒電波ソングを浴びた瞬間――ウイルスが“リズムにハイジャック”された。
攻撃動作が止まり、鼓動に合わせて痙攣し始める。
「動け! 死体みたいに止まるな!(お前ら死体だけどな)」リンエンが怒鳴る。
「笑顔! 笑顔だ! 笑顔を見せろ!」
ゾンビたちは、ぎこちないが妙に揃った動きで踊り始めた。
左手で龍、右手で虹!
身長五メートルのタイラント(ゾンビ王)が最前列のセンター(C位)に立ち、折れた脚をサイリウム代わりに振りながら――信じられないほど正確に“カウントに合って”いた。
【システム通知:警告! 尸潮……“アイドル活動”中? 攻撃欲求ゼロ。】
リンエンはスピーカーの上に座り、茶を啜る。
「ほらな。リズムさえ良ければ、ゾンビだってアイドルになれる」
「これが『ゾンビィ・アイドル伝説(屍体真愛版)』だ」
[幻鏡ライブ弾幕]
[ これを“芸”と呼ばずして何と呼ぶ。 ]
[ ゾンビ:身体が……勝手に……打ちコールしたい……! ]
[ バイオ危機を音ゲーでクリアした男。悪魔か? ]




