第一百零六話:密輸王! “辣条”を“工業用潤滑油”に偽装せよ
(場所:第13区・連邦理性検問所)
地球文化の流出を完全に封じるため、連邦は第13区外縁に厳重な検問所を設置していた。
融通の利かないキューブ型ロボットが、スキャナーであらゆる船を検査する。
「ピッ――禁制品検出:高糖分書籍。焼却!」
「ピッ――禁制品検出:バーチャルアイドルポスター。焼却!」
そこへ、リンの巨大貨物船(ドラゴン王バハムート牽引)が、ゆっくりと検問へ滑り込む。
船内にはコンテナが山のように積まれていた。
「停船。検査を行う」
キューブロボットが赤い電子眼で貨物をなぞる。
「コンテナを開けろ。これは何だ」
最初の箱。中には赤い油にまみれ、刺激臭を放つ細長い物体――辣条がぎっしり。
リンは作業ズボン姿で、きわめて誠実な顔をした。
「報告します、長官。第13区特産の――」
「【赤色・工業用ヘビーデューティー潤滑脂(High-Performance Grease)】です」
「潤滑脂?」
ロボットは一本をつまみ、センサー分析を走らせる。
「成分:カプサイシン、油脂、香料……強烈な刺激臭を検出」
「その通り」リンは真顔で言い切る。
「これは重型星間エンジン専用です。“辛味属性”を帯びた油でないと、超光速航行中にエンジンが“熱血沸騰”を維持できません」
「この油を使わないと、エンジンが鬱になります。船が拗ねて止まります」
ロボットの論理コアが高速回転する。
「エンジン……鬱……論理検証中……荒唐無稽だが、反証不能」
「第13区の機械はサイバー精神病を発症し得る」
「判定:通過」
「ではこれは」
第二箱。分解されたゼロちゃんフィギュアのパーツ(腕、脚、頭)が山。
「これは【精密バイオメカの交換用部品】」
リンはゼロちゃんの頭部を持ち上げる。
「えーと……中央演算装置の外殻」
次に、黒ストッキングの脚を持ち上げる。
「こちらは油圧伝達ロッド。防錆のため黒く塗装しています」
ロボットがスキャン。
「材質:PVC。低価格だが工業規格内。通過」
「通行を許可する」
ゲートが開き、リンは十万トンの“精神ドラッグ”を堂々と銀河の奥へ運び出した。
数日後。
宇宙の闇市には、ひとつの伝説が流れた。
――“キマる赤い油”が欲しければ、第13区産の「潤滑脂」を買え。
外星人たちは布団の中で“工業用潤滑油”をむしゃむしゃ食べ、顔を真っ赤にしながら歓喜した。
辛い。痛い。なのに、やめられない。
【幻鏡ライブ・弾幕(暗号チャンネル)】
[ロボ:この潤滑油、なんか食えそう…]
[潤滑油じゃねえ、衛龍だw]
[フィギュアを機甲部品にする発想、天才]
[密輸現場に“匂い”があるの草]
貨は出せた。だが――安全な“捌き場”が要る。
「売るだけじゃダメだ。“群れて吸う場所”(=群れてアニメ見る場所)が必要だ」
リンは星図の片隅、廃棄された小惑星鉱坑を指した。
「ここだ」
「【地下二次元都市】を作る」




