第一百零五話:全銀河ネット封殺? なら“地下ブラックマーケット”だ!
(場所:銀河系第13区・深淵ブラックストリート・裏路地)
「銀河第一号文化禁止令」が発布されてから、すでに一週間。
銀河全体が、死んだような灰色に沈んでいた。
『覇道魔王』の更新が途絶え、外星系のホワイトカラーたちは虚ろな目でキーボードを叩く。
ゼロちゃんの歌声が消えたせいで、機械族のCPU稼働効率は四〇%も低下――“核心動力”を失ったのだ。
布団の中で震えながら、四〇四のページを狂ったように更新し続ける者まで現れた。
手の震え、動悸、禁断症状。
銀河は、文字通り“文化切れ”を起こしていた。
第13区。
暗く湿った裏路地。ネオンの残光だけが、壁の汚れに滲んでいる。
破れたローブをまとった乞食のような老人が、周囲をキョロキョロと見回しながら焦れていた。
――だが本当の姿は、銀河エネルギー社のCEO。資産は兆。
それでも今は、ただの中毒者みたいに惨めだった。
「シーッ――」
闇の中から、口笛。
リンが闇より歩み出る。
かつての“華やかなアイドルプロデューサー”は、ここにはいない。
黒いハイネックのロングコート。つば広の帽子を深く被り、顔の半分を影に沈める。
口には棒付きキャンディ――葉巻めいて見えるそれをくわえ、瞳だけが危険に光った。
【新たな身分:深淵のゴッドファーザー(The Godfather)】
「ゴッドファーザー……!」
老人は飛びつき、リンのコートの裾に縋りつく。
「あるのか……? 頼む、頼む……一章だけでもいい! もう限界なんだ! 昨夜は“婚約破棄後の展開”を夢で見た!」
「落ち着け、古い友よ」
リンはキャンディの甘い息を吐き、左右を一瞥する。連邦の巡回ドローンはいない。
ゆっくりと、黒いコートの内側を開いた。
そこには――微光を放つUSBメモリが、びっしりと吊り下げられていた。
「これは『婚約破棄流:龍傲天』最新三章――未削除版」
「これは『極楽浄土』4K・無損失・全天球音源」
リンはさらに、赤い小型チップを取り出す。
「……そして、これだ。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』最終話。希少品だ」
老人の目が真紅に変わる。欲望が、光として漏れ出した。
「ぜ、全部だ! 全部寄越せ!!」
震える手で、懐から“反物質艦の起動キー”を取り出し、リンの手にねじ込む。
「旗艦をやる! 早く……早く“貨”を……!」
リンはキーを受け取り、口角をわずかに上げ、数本のUSBを老人へ滑り込ませた。
「取引成立。見終わったら破棄しろ。“サツ”に捕まるなよ」
老人は宝物を抱く子どものように、泣きながら闇へ消えた。
「助かった……これで……精神の食い物が……!」
【幻鏡ライブ・弾幕(暗号チャンネル)】
[うおお画風急転! 恋愛から一気にマフィア映画w]
[前はタダ見、今は土下座で買う時代]
[リン:俺は薬神じゃない、書神だ]
[これ売ってるの“本”じゃない、“電子ドラッグ”だろw]
小口の取引は気持ちいい。だが――在庫が重すぎる。
地球に積まれた“辣条”とフィギュアが、何十億トンも眠っている。
吐き出せなければ、資金繰りが死ぬ。
リンは遠くの【連邦理性検問所】を見て、商人の笑みを浮かべた。
「……デカいのをやるしかないな」
「アリス、ラベルプリンターを用意しろ」
「“堂々と”通る」




