第一百零一話:田舎者が都会へ?――いや、“概念神”ってものを見せてやる
(場所:銀河系第1区「光の都」・全宇宙最大反重力ステージ)
ここは銀河系の娯楽の心臓部。ただのスタジアムではない――惑星まるごとが“舞台”へ改造されている。無数の巨大な反重力スタンドが、きらめく星雲を背に虚空へ浮かび、数千億の観客が神経リンクで現地へ接続する。
リンが一度まばたきするだけで、その瞬間は一億倍に拡大され、星空へ投影された。ステージ中央、前回の覇者――【蟲族の歌姫・カ=サ】が、たった今“完璧な演目”を終えたところだった。
全高十メートルの巨大昆虫女王。全身はダイヤのような甲殻で覆われ、背には一万枚の透明な高周波の翅。一万の複眼でカメラを見据え、超音波で《蜂巣・絶対秩序の歌》を奏でる。人類には工事現場の電動ドリル音にしか聞こえないが、“効率と秩序”を至高とする銀河系では、これが最高の雅楽だった。
「次の出場者! 第404号辺境惑星の代表チーム!」
司会の声は雑で、どこか嘲りすら混じっている。スポットライトは、信じられないほどケチに隅を照らした。そこに停泊していたのは、リン一行――生体標本のような姿の龍王バハムート。
「プッ……」
蟲族の歌姫が侮蔑の嘶きを漏らし、その声は拡声器で会場中へ響き渡る。
「ホログラム粒子の光演出も無し? 反重力舞台美術も無し? それどころか身体改造すら無し? あなたたち、原始人の雨乞い踊りでも見せに来たの? 帰りなさい、下等生物。ここは芸術の殿堂よ。動物園じゃない。」
会場は爆笑。数千億の弾幕が、全天のホログラム天幕を埋め尽くす。
[ 消えろ! ゴミNカード惑星! ]
[ その龍、食材? 肉、固そう。 ]
[ こんな炭素系の演目、視覚センサー汚染だわ。 ]
リンは龍の頭上に立っていた。手仕立ての漆黒の燕尾服、胸には真紅の薔薇。数千億の嘲笑を浴びても、怒りは一滴も見せない。むしろ優雅にネクタイを整え、カメラへ“世間知らずの田舎者が可哀想”とでも言うような同情の目を向けた。
「ホログラム光? 粒子衝突?」
リンは首を振り、精神干渉で声を会場全域へ直接叩き込む。
「そんな光害が“美”だと? 想像力が痩せている。アリス――理性しか持たない連中に授業をしてやれ。教えてやれ。何が【意境(Atmosphere)】かを。起動――【現実再構築・千本桜(Senbonzakura)】。」
――ブゥン!!!
その瞬間、光の都の電力が落ちたわけじゃない。“乗っ取られた”のだ。S級機娘アリスの膨大なデータ流が、現地の環境レンダリングエンジンを強制的に上書きする。
世界が、変わる。冷たい金属ステージ、瞬くネオン、漆黒の宇宙背景――すべて消失。代わりに、空を埋め尽くす“桃色の光子桜”。一枚の花弁は数億のコードで編まれ、地に触れれば光の粒となって溶けていく。
虚空には、朱塗りの巨大鳥居がそびえ立つ。“和風サイバー(Neo-Kyoto)”の美学で構成された異界の門。古い石灯籠が宙へ浮かび、内側では青い鬼火が揺らめく。そして――巨大な人工の紅月が、ゆっくりと昇った。“物哀”と“テクノロジー”が衝突する、その矛盾の美が極限まで増幅される。
「……な、何よ、これは……?」
蟲族の歌姫は固まった。複眼は、これほど複雑で柔らかな色彩データを処理したことがない。
「植物の死体? なのに……どうして……コアプロセッサが熱いの? この“鼓動が速くなる”感覚は……何……?」
花弁の雨の中で、ゼロ(Zero)が登場する。冷たい金属の殻を脱ぎ、改良型のハイレグ戦闘和装へ。手にはデータ流で鍛えた太刀。彼女は言葉を発しない。紅月の下、ただ静かに刃を振る。
「――散れ。」
それは単なる視覚演出ではない。“美の定義”そのものを、暴力的に書き換える儀式だった。
【幻鏡コメント】
[ うわぁぁぁ!! 何この神画風!? ]
[ 警告:視覚プロセッサ過負荷。美しすぎる! ]
[ 外星人、固まってる。四角と線しか知らないのに、この意境は毒だろ! ]
[ 蟲族歌姫:私の目(複眼)が焼ける!! ]
[ リン:文化があるって、こういうこと。 ]




