第一百話:黒幕は“缶詰脳”?――抜くべきは、網じゃない。線だ
(場所:本部地下・密室)
最深部の密室に、異様な装置があった。緑色の栄養液で満たされた巨大なガラス槽。その中に、無数の管を突き刺された“巨大な脳”が浮かんでいる。
【身元識別:機械飛昇教団・大祭司】
「ケケケ……」
スピーカーから、脳の狂気の笑い声。「リン・アドラー。軍を潰し、金を奪っても――俺は殺せない。俺は肉体を捨て、ネットと融合した。ここでは――俺が神だ!」
声はさらに甲高くなる。「この星のサイバー精神病患者は全員、俺の“マイナー(採掘機)”! 脳内に奴隷チップを埋め込み、脳の算力で仮想通貨を掘らせている! 今からネット経由で――お前らの脳を焼いてやる!」
ジジジ――!
数百万の狂気意識が束ねられた精神データが、津波のように襲いかかる。「危ない!精神攻撃だ!」アーサーが叫ぶ。
だがリンは、その場から一歩も動かない。防御魔法すら張らない。水槽の脳を見下ろし、“知的障害児を見守る”みたいな慈愛の顔をした。
「神?ネットの神?」
リンは首を振る。「お前はただ、採掘のために自分の脳をホルマリン漬けにした狂人だ。ネットで無敵だと思ったか? 悪いが、こっちには――“物理断線の専門家”がいる。」
リンは、空中で浮いたまま寝ている怠惰魔王ベルフェゴール(ベリエル)に手を置いた。「ベリエル、起きろ。仕事だ。この星の“LANケーブル”――抜け。」
「はぁ……だる……」
ベリエルは眠そうに目を開け、欠伸を一つ。深淵の“生体スーパーサーバ”たる彼は、ネットワークに絶対的支配権を持つ。
「――沈黙。」
ぱちん、と軽く指を鳴らした。その瞬間。世界の灯りが一斉に消えるように――第13区の通信、データ転送、電波、すべてが“物理的に遮断”された。
さっきまで「俺が神だ」と吠えていた脳が、硬直する。モニターは真っ黒。データ流は断絶。管はただの管になった。
「……え? お、俺の……ネット……?」
大祭司の声が、恐怖に歪む。「繋がらない!サーバが見えない!データが……! 神だぞ!俺は神なんだ!ネットがないと――!」
ネットという水が抜けた瞬間、脳は陸に上がった魚だ。数秒後――ぷつん。過熱と論理崩壊で、脳は栄養液の中で“茹で上がり”、脳味噌の香りが立ち上った。
リンは肩をすくめる。「どれだけ凄いハッカーでも、抜線には勝てない。これが“次元の違う殴り方”ってやつだ。」
【配信コメント】
[ 朴実無華な商戦:LAN抜き ]
[ BOSS:大技まだなのに!404!? ]
[ リン:サーバ権限持ってる、つまりお前の親だ ]
財閥を片付け、リンはこの星の新たな支配者となった。ネオンは再び灯る。だが今度の光は搾取の赤ではなく、深淵リラク店の“温かいピンク”だった。
そのとき――予想外の来訪者。ピンク塗装、艦体に巨大な「ゼロちゃん」イラストを描いた星間巡洋艦が、港に静かに停泊する。ハッチが開き、猫耳の宇宙ロリが降りてきた。銀河最大級のエンタメ企業の、エース級スカウトだ。
「リンさん!配信見ました!ゼロちゃん、可愛すぎです!」
スカウトは目を輝かせ、興奮してリンの手を握る。「来月の【銀河アイドル祭・天梯ランク戦】に出演してください! 優勝すれば、“文化の発言権”が手に入ります! つまり――全宇宙へ、合法的に物販(帯貨)できる!」
リンの目が光る。ネクタイを整える。
「文化の発言権? 要するに……地球の“広場ダンス”と“仙侠小説”を全宇宙に売っていいってことか? アリス、船を用意しろ。次は――銀河エンタメ界を制覇する。」




