第4話 星座の力
「何、これ……」
気付いたら、わたしの目の前にキラキラ輝く一本の杖が浮かんでいた。星形のクリスタルのような透明な石を頂き、白い羽根の装飾が星を覆う。
わたしが想像した杖、それよりもキラキラとした武器がある。
「想像した、わたしの……?」
「《《姫》》、それを手に取ってください!」
「姫って、わたしのこと?」
シャリオちゃんに聞き返すけれど、彼女は頷くだけ。わたしは深呼吸を一つして、杖に手を伸ばした。
「……っ」
掴むと同時に杖の輝きが増す。眩しさに目がくらみそうになったけれど、杖が手に馴染む感覚があってハッとした。
(わたし、《《知ってる》》)
何を知っているのかはわからない。だけど、この武器がわたしのものであるという確証があった。
「美星、逃げろ!」
「――っ!?」
ぼーっと考え事をしている暇などなかった。夢月の声を受けて顔を上げると、正面からデメアがわたしに向かって飛び掛かって来る。武器を得たわたしの方が、自分にとって危険だと判断したのかもしれない。
「ガァァッ」
デメアの口の中にある鋭い牙と、垂れ流れる唾液が鮮明に見える。それだけでも怯むには充分な要素だったけれど、わたしは自分を鼓舞した。怖いけれど、デメアというこの化け物を倒さなければ。
太い爪が近付いて来る。わたしは心に浮かんだ言葉と動きをなぞり、一心に叫んだ。
「――『獅子宮の牙』!」
叫ぶのと同時に杖の頂に据えられた星が輝き、獅子座のマークが映し出される。次いで光で形作られた獅子が飛び出し、デメアに真正面から襲い掛かった。
(杖からライオン……ううん、獅子が出て来た……!)
獅子とデメアの取っ組み合いになり、一見すると互角だ。けれどデメアが大きな口を開け、更なる魔法の気配を見せたことで形勢は変化しようとする。
「――ダメ!」
燃やされれば、負けてしまう。そう直感したわたしは、杖を握り締めて獅子に「負けないで」と願った。どんな風に獅子を助けたら良いのか、応援したら良いのかはわからない。それでも何もしないよりましだと思った。
――ガウッ。
任せろ。獅子がそう言った気がした。顔を上げたわたしの目の前で、獅子のたてがみが金色に燃える。デメアよりも数倍強い火力で、獅子は口から火炎の渦を放射した。
「――ッ!」
デメアを覆い尽くす火炎。美しくも激しい光景に、わたしはしばしぼんやりと立ち尽くした。
「……ほし? 美星!」
「わっ!? む、夢月……」
夢月に肩を捕まれ正面から覗き込まれ、わたしは一気に現実に引き戻される。深緑の瞳に、目を見張るわたしが映り込む。
突然のことで何も言えなくなるわたしの頭に、夢月の手がポンッと乗る。成長してわたしより背が高くなってから、夢月はわたしの頭を撫でることが増えた気がする。実は気持ち良くて好きだなんて、言えないけれど。
「よく頑張ったな。デメア、倒したぞ」
「え……」
再び言葉を失うわたしに、夢月は「見てみろ」と指差す。そちらに目を向ければ、金色の獅子が見返っていた。その獅子の前には、今まさに風にさらわれ消えようとしている黒いもの―デメアの残骸―が残っている。
「たお、した」
「みたいだ。……っと! 大丈夫か、美星?」
「ちょっと……気が抜けた、のかも」
デメアが消えて、わたしの体から力が抜けた。入らなくなった、という方が正しいかもしれない。咄嗟に受け止めてくれた夢月に「ありがとう」と言ったけれど、ちゃんと言えたのか自信はない。
「美星!?」
遠くで夢月の声が聞こえる。わたしは大丈夫と言うことも出来ず、そのまま気を失った。
✿✿✿
「美星! おい!」
俺に体を預けて倒れてしまった美星が心配で、俺は何度も呼びかける。けれど全く反応がなく、どうしたら良いのかと途方に暮れた。
そこへ、心配そうな顔をしたシャリオがやって来る。ふわふわと浮きながら美星の口元に手をかざし、ほっと眉間のしわを消す。
「眠ってしまったみたいですね。無理もありません。初めて魔法を使われたんですから」
「魔法、あれが……。そういえば、さっきのでかいのは」
周りを見渡すけれど、先程までいた獅子はいない。シャリオによると、魔法を使う者が気を失ったため、効力が切れて消えてしまったのだとか。
「シャリオ、色々聞きたいことがあるんだけど?」
「そう、ですよね。何からお話しましょうか」
「とりあえず、場所を移そう。……の前に、服を元に戻してほしいんだけど?」
「あ、そうですよね! 変身を解くよう念じれば戻れますよ」
「念じる……」
半信半疑だったけれど、俺は目を閉じて変身前の服装を想像しながら念じる。するとあっという間に服が戻り、ほっとした。
美星はどうしようかと思った時、ひとりでにポンッと変身が解けた。シャリオ曰く「本人の意識が途切れたので、解けたみたいですね」らしい。
「デメアがいる間は一般人が近くに来ないよう結界を張っていましたが、用心に越したことはありませんもんね。それに」
「それに?」
「デメアが消えましたから……往来もありますし」
「それを早く言え」
確かに、遠くから人の話し声が近付いて来る。俺は美星を抱き上げて、そのまま人通りの少ない道を選んで歩いた。このまま美星の家に送り届けても良いけど、親が驚くだろうな。
(となると、俺のとこか。母さんたちまだ帰って来てないだろうし、いいか)
俺は高校から家まで徒歩圏内でよかった、と心から思った。
試し読み、ここまでです。
ありがとうございました。




