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第3話 デメア出現

「シャリオちゃん、デメアって……何?」

「……説明している時間はありません。お二人共、力をお貸し願えますか?」

「は?」

「え?」


 わたしたちが聞き返す間もない。シャリオちゃんか手を開くと、そこには二つの光の玉が瞬いた。

 一つはわたしの瞳と同じ、黄色がかったオレンジ色の光。もう一つは、夢月の瞳と同じ深い緑色の光だ。


(どうして、懐かしく感じるの……?)


 小さな小さな光の粒。見たことなんてないはずなのに、わたしの心に去来したのはどうしょうもない懐かしさ。どうして目頭が熱くなるかなんて、わけがわからない。


「しゃ、シャリオちゃん……」

「シャリオ、これって何だよ? 何で、こんなに……苦しいんだよ!?」


 夢月の声がわずかに震えている。彼も、わたしと同じなんだ。どうしてかわからない感情に揺さぶられている。

 だけど、シャリオちゃんはその問いには答えない。ちらちらとデメアと呼んだ黒いものを見ながら、焦った声で叫ぶ。


「後で説明します! だから今は……あれをやっつけるために力を貸して下さい!」

「……必ず説明してもらうからな」

「夢月」

「やろう、美星。あんなのほっといたら、危険だろ」


 目元を拭って、夢月が言う。何をどうしたら良いのかなんて正直全くわからないけれど、やるしかないよね。


「うん、そうだね」

「ありがとうございます! では……いきます!」


 シャリオちゃんがはっきりと告げた途端、彼女の手のひらに浮かんでいた二つの光が眩く輝いた。


「……!」

「……っ」

「ガァァッ」


 光が広がるのと、謎の影が雄叫びを上げるのはほぼ同時。デメアと呼ばれたその影が、淡い緑の光に包まれた夢月に向かったのが見えた。


(夢月――っ!)


 咄嗟に手を伸ばしたけれど、届かない。そしてわたしの目の前で、夢月の姿が変化した。


「――ッ!」

「ガッ!?」

「……む、夢月?」


 おそらくわたしの口は、ぽかんと開いていたに違いない。だって夢月の姿が、見慣れたものではなかったから。

 黒を基調としたジャケットには、銀色の糸で刺繍が入っている。パンツも同様で、ベルトにはチェーンがつけられ、明るい緑の珠が幾つか下がっていた。派手に見えないのは、動きやすさ重視で立体的な装飾が少ないからかもしれない。

 更に夢月は、素手でデメアの首を掴んでいた。自分に向かって牙を剥くデメアを止めている。自分でも驚いているのか、ちょっと目を見張りながら。


「何、あれ……。まるで、テレビで見る変身ものみたいな」

「美星、他人ひとのこと言えないからな」

「へ? ……ええっ!?」


 自分を見下ろして、わたしは本気で驚いた。

 白を基調に、オレンジと黄色で彩られた丈の短いスカートと袖口にレースが入っている袖がかわいらしい衣装を着ていた。ケープも白。ごてごてした服ではなく、軽くて動きやすい。


「かわいい……けど、これは一体どういう……」

「あれを倒したら、ちゃんと説明します。だから、お願いします!」

「お願いしますって言われても……」


 何をどうすれば良いのか。混乱するわたしとは対照的に、夢月はニッと笑うとデメアを遠くへと投げる。


「ギャアッ」

「流石に、投げるだけじゃダメージにはならないか」

「……夢月、ちょっと楽しいでしょ?」

「バレたか。こういうの、少し憧れてたんだよな」


 デメアは悲鳴を上げたものの、大して痛みは感じないらしい。すぐに立ち上がり、夢月に向かって飛び掛かる。


「同じ手は……っ!?」


 もう一度受け止めてやろうと構えていた夢月は、カパッとデメアが口を開いたことで戦術を転換せざるを得なかった。まさか、炎を吐くなんて思いもしないから。


「デメアは遠距離攻撃も仕掛けてきます! 気を付けて!」

「早く言え!」


 紙一重で躱した夢月にほっとして、わたしはどうしたら良いのか考える。何か武器があれば、せめて素手にはならないのに。


(どうしたら戦える? どうしたら、夢月と一緒に……)


 考えに考えるけれど、良いアイデアは出て来ない。変身しただけじゃ、素手だけじゃ、何も救えない。


 ――そんなの、《《もう》》嫌。


 突然湧き上がった声。「え……」と思わず声が出たけれど、周りにはシャリオちゃん以外誰もいない。彼女の声はどちらかといえば甲高く、聞こえた女性の声とは明らかに違う。


「誰……? わっ!?」

「……っ。美星!」


 デメアと格闘する夢月が、わたしの名前を呼ぶ。彼の手の甲の傷が見えた。デメアに噛まれたのかも知れない。


 ――大切な人が傷付くのは、もう嫌だ。


(また、聞こえた。この声は、誰なの……!?)


 わからないけれど、これはきっと《《忘れてはならない声》》だと思う。だからわたしは、この声の願いを叶えたいって強く願った。


(わたしだって……わたしだって、夢月が傷付くのは絶対嫌だ!)


 胸の中が焼け付くように熱くなる。わたしは悲鳴を上げたいのをぐっと我慢して、イメージした。

 幼い頃、アニメで見た魔法少女の持っていた杖。あんなふうに、わたしも誰かを守り戦いたい。


「……目覚めた。一人目の戦士」


 シャリオちゃんの呟きは、まだわたしには届いていなかった。

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