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第1話 夢の呼び声

 幼い頃から、時折夢を見た。

 自分であって自分でない、誰かが泣き叫んでいる夢。誰か、強く思う誰かの名前を、声が枯れても呼び続けている。

 その人の周りは、大理石のような石の破片が散らばっているのだ。太い柱が幾つも倒れ、何か大きな力で潰された建物を背景に、独り泣いている。

 その夢を見る度、わたしは胸が苦しくなった。幼い頃は悲しくなって、悲しいことが怖くて怒ってどうして良いのかわからずに真夜中に泣き喚いて起きていたらしい。


「……また、この夢。最近、見る頻度が高いかも」


 スマホのアラームに起こされて、わたしは目を覚ました。あの夢を見る度に、目が開けにくいのは、泣いているから。零れそうな涙を袖で拭い、気を取り直してベッドから起き出す。


「おはよう、お母さん」

「おはよう、美星みほし。朝ご飯出来てるから、顔洗ってきなさい」

「はぁい」


 お母さんに挨拶し、わたし―宿姫美星やどひめみほし―は顔を洗って食卓についた。お父さんは既に出社したらしく、家にはもういない。

 朝ご飯を終えて色々と支度していたら、もう高校に行く時間。テレビの星占いは途中だったけれど、仕方ないよね。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 家を出て、通学路を歩く。高校生になってもうすぐ一か月となり、ようやく日々の生活に慣れて来たところだ。


「あっ」


 前方に、よく見知った背中がある。わたしは小走りになって、彼の背中をトンッと叩いた。振り返った深緑色の瞳を見て、笑ってみせた。

「おはよう、夢月むつき

「おはよ、美星。一緒に行くか?」

「うん」


 頷いて、夢月の隣を歩き出す。わたしより十センチ背が高い幼馴染は、何となく歩幅を合わせてくれていた。

 日向夢月ひゅうがむつきとわたしは、記憶にない頃から互いに知っている。親同士が友人で、その縁でずっと一緒に成長してきた。

 夢月はクールで表情はあまり変わらないし、あまり口数が多い方じゃない。わたしもそんなに喋るのが得意ではないから、一緒にいて無理がなくて気が楽だ。

 それでも何故か、クラスメイトの女子などにはうらやましがられる。夢月の友だちに聞いたけれど、彼はわたし以外の女子には冷たいらしい。何でだろう。


「危ない」

「え? わっ」


 突然腕を引かれて、わたしは赤信号で進もうとしていたことに気付いた。考え事をしていて、全然気付かなかった。軽いため息が聞こえて、わたしは振り返る。


「ごめんなさい、ありがとう」

「ぼーっとするのも良いけど、気を付けてくれ。びっくりするから」

「うん」


 腕から手が離れて、代わりに背中をぽんっと押される。見れば、信号が青に変わっていた。行こう、という合図だったみたい。


「待って、夢月」

「置いて行かないから、転ぶなよ」

「わかってる」


 少しだけ歩くスピードを速めて、夢月に追い付く。周りに同じ制服を着た学生が増えて来たのは、高校が近いから。わたしたちは家から一番近い、徒歩圏内の学校に進学していた。


「そういや、赤信号に気付かないって何考えてたんだ?」

「え? あー……。夢月が女の子に冷たいって聞いたから、何でだろうって思って?」

「何で疑問形なんだよ。……ってか、別におれは態度を変えてるつもりはない」

「そうなんだ? 十九川とくがわくんと守山もりやまくんが言ってたから、そうなのかなって」

「あいつらのせいかよ……」


 眉をひそめる夢月を見上げて、わたしはふふっと笑った。相変わらず、三人は仲良しみたいだから。


「小学校からの友だちだもんね」

「遠慮ないからな。それはおれもだけど」


 ふっと笑った夢月に、わたしもつられる。もしも十九川くんたちの言うことが本当なら、こんな彼の表情が見れるのはわたしだけってことになる。……そうだったら良いのにな。

 それからは、いつもと同じく雑談をしながら教室に向かう。幾つかの視線は気になるけれど、夢月が気にしていないからわたしも気にしないようにしている。

 今日の小テストの範囲、宿題の話、先生とか友だちの話。色々あるけれど、二人っきりで話せる貴重で楽しい時間だ。わたしにとっては、だけれど。


「みーほしーっ」

紗都希さつきちゃん、おはよう」


 教室に入った直後、わたしに向かって一人の女の子が駆け寄ってくる。灰色に近い黒のロングストレートヘアをなびかせ、人懐っこい笑顔でわたしと手を合わせた。

 彼女は小学校中学年からの親友、本原紗都希もとはらさつきちゃん。ポジティブで明るい笑顔がかわいくて、元気をくれる大好きな友だち。

 紗都希ちゃんは、くるっと夢月の方を向いて菫色の目を細める。


「日向くんも、おはよ」

「……おはよ。じゃあまたな、美星」

「うん」


 すんっとした態度で離れて行く夢月。彼の向かう先、彼の席には、十九川くんと守山くんが待っている。二人共わたしに気付いて手を振ってくれた。

 十九川榮大とくがわえいたくんは、くせのない黒髪ショートの髪で、眼鏡男子。見た目通りの秀才で、落ち着いて朗らかな性格をしている。嫌味がないから、よく頼りにされているのを見かける。

 守山龍太朗もりやまりゅうたろうくんは、スポーツ万能だけど少し勉強は苦手みたい。よく夢月や十九川くんに教わっている姿を見る。ワインレッドの瞳が好奇心旺盛で、走る度に明るい茶色の髪が日の光に映える。

 彼ら二人が、小学一年生からの夢月の親友。わたしもよく知っているから、よく四人で、もしくは紗都希ちゃんも入れて五人で喋るんだ。


「美星、昨日のテレビ見た? TWIN☆STAR(ツインスター)が歌番組で……」

「紗都希ちゃん、そのアイドル好きだよね。昨日、メッセージもくれたから、ちゃんとチェックしたよ」


 紗都希ちゃんと自分の席に向かって歩きながら、彼女の大好きなアイドルの話を聞いていた。


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