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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編童話シリーズ

いただきます

作者: 八代 秀一

 とある農村に、貧しい親子がいた。

藁葺きの家に、借りものの小さな畑。

自給自足の暮らしは、決して楽ではなかった。

が、それでも貧しいながらに親子三人、ささやかな幸せを噛み締める日々。


 子には、三匹の友達がいた。

庭の片隅で飼われていた鳥と豚と牛である。

物心ついた頃から共に育った三匹は、子にとっては兄弟のようなもの。

言葉は通じなくても、互いを思いやれる大切な存在だった。


 ある年、村は日照りによる凶作で大規模な飢饉に見舞われた。

水は涸れ、畑は痩せて食べるものがなく、飢えと病に苦しむ村人たち。


「仕方ない。三匹のうちの一匹を絞めよう」


痩せた畑を悄然と眺めて父親は言った。


「そうね。牛は乳が搾れるわ。鳥は卵を産むかもしれない。豚にしましょう」


母親は嘆息をひとつ漏らして頷く。


 ――三匹のうちの一匹を絞める?


 予想だにしない展開に、子は一瞬頭の中が真っ白になった。

無理もない。

大切な友達を食べるなんて誰が想像するだろうか。


「止めて。豚は、僕の大切な友達なんだ。お願いだから殺さないで」


子は必死に懇願した。

が、両親は静かに首を横に振るばかり。


「気持ちはわかる。だが、このままではみんな飢えて死んでしまう。生きる為には仕方がないことなんだ」


 父親は言うと、母親がそれに同調して、


「そうよ。食べる為の殺しは許されるの。だから、命に感謝して残さず食べましょうね」


 そうして子の反対も虚しく、親子は豚を犠牲にして飢饉を乗り切ったのだった。


 だが、得てして不幸とは連鎖するもの。

翌年もまた、村は飢饉に襲われたのである。


 凶作に次ぐ凶作だ。

状況は昨年にも増して厳しい。


「今年は、鳥と牛のどちらを絞めようか?」


当然のことのように父親は切り出す。

と、母親は申し合わせていたかのように、


「そうね。牛は、畑を耕すのに必要だから、今年は鳥にしましょう」


両親の決断に子は涙ながらに訴えた。


「止めて。鳥は、僕の大切な友達なんだ。お願いだから殺さないで」


心を通わせた友達が、また一匹いなくなってしまう。

しかしながら子の抵抗も虚しく、


「我慢しなさい。これも我々親子が生き延びる為だ」


父親は力強く首を振り、母親がそれに同調して、


「そうよ。生き物の命は、ほかの多くの犠牲の上に成り立っているものなの」


そうして親子は鳥を犠牲して、またしても飢饉を凌いだのだった。


 けれども、二度あることは三度あるとはよく言ったもので、翌々年もまた村は飢饉に襲われたのである。


「仕方ないな」


「そうね」


両親の短いやり取りで、直感的に牛が殺されると悟った子はわんわんと泣いた。


「止めて。僕の友達がいなくなっちゃう」


しかしながら子の願いが聞き入れられることはない。

生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

背に腹は代えられないのだろう。


 そうして数年が経ったある年のこと――、

村はまたしても日照りによる大飢饉に見舞われたのである。


心労と栄養失調で倒れた父親。

看病に追われる母親。

だが、もう頼みの綱の牛や豚や鳥はいない。


 ある晩、空腹に耐えかねた子が錆びついた鎌を握り締めて言った。


「お母さんは、まだ働ける。残念だけど、今回はお父さんに犠牲になって貰おう」


我が子の言葉に、両親は色を失った。


「何を言っているんだ。人殺しは何より罪深いことなんだぞ」


父親は声を荒げると、母親がそれに同調して、


「そうよ。そんなこと、許されるはずがないわ。子供が親を殺すなんて…」


 すると、子は痩せこけた頬に冷笑を浮かべ、いつかの両親の言葉を反復してみせる。


「大丈夫だよ。だって、食べる為の殺しは許されるんでしょ」


「許されるわけがないでしょ。人間を食べるなんて…。そもそも許すとは被害者の特権であって、加害者が決めていいことではないのよ」


反駁する母親に、子は怪訝そうに小首を傾げ、遠い目をしてぽつりと呟く。


「そうだよね。じゃあ、一体、誰が牛や豚や鳥に許して貰ったんだろうね。言葉なんて通じるはずがないのに…」


言下、審判を下すように錆びついた鎌が力いっぱい振り下ろされたのだった。


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