ざまぁの神は可愛い末っ子 ~美しくないから婚約破棄なんていじわるしちゃダメでしゅよ~
初投稿となります。
よろしくお願いします。
僕は生まれたての神様なんだ。
人々の願いによって新しい神様が生まれることがあるんだって。
僕は500年ぶりに生まれた新しい神
『ざまぁの神』っていうんだ。
生まれたてだからまだ体も小さくて人間でいうと3歳児くらいの外見なの。
でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんの神達は、僕のことをすごく可愛がってくれるんだ。
いつも頭をなでなでしたり、僕のプクプクほっぺをつんつんしたりするんだよ。
特に美の神のおねーちゃんは、僕を片時も離さないほど可愛がってくれるんだ。お姉ちゃんが僕を見ながらいつも呟いている「とうとい」ってなんだろう。
今日はお父さま…じゃなかった、創造神様から新しい神として認められるための任命式があるんだ。これが終わると一人前の神様なんだ。えっへん!
「人の願いより生まれし新たな子よ。偉大なる神となることを期待する。」
「あい。がんばりましゅ。」
僕はお手てをあげて、大きい声で答えたよ。
創造神様は僕を見ながらニコニコ顔でうなずいて、その両手からキラキラの光の粒を振りまいて僕にかけてくれたんだ。
期待に答えられるように頑張らなきゃ。僕は小さなお手てを握りしめて、やる気を漲らせる。
信仰心をたくさん集めれば、体も大きくなるってお兄ちゃん達が言っていたから、早く信仰心を集めて大きくなるぞぉ。
よーし、まずは信者を集めるために下界を覗いてみよう。
〈下界:サンフラワー王国〉
「ソニア=ローズスターとの婚約を破棄する。貴様のような醜い女は王太子妃にふさわしくない。」
貴族学校の華やかな卒業パーティーにて、この国の王太子であるエリック=サンフラワーは声高らかに宣言した。
王太子の隣にはピンクの髪をした美しい令嬢が寄り添い、後ろにはこの国の高官の貴族令息達が揃って、婚約破棄を宣言されたソニア=ローズスター侯爵令嬢をステージ上から侮蔑の目で見降ろしていた。
エリック王太子達は、ソニアが日常的に他の令嬢や使用人を虐めており、姿だけでなく心まで醜い女であるとしてひどい言葉を投げかけて糾弾し、最終的に国外追放処分を言い渡した。
当事者であるソニアには一言の弁明も許されず、ソニアを擁護する者もいないままに王城の地下牢へと連れて行かれると、卒業パーティーは何事もなかったかのように再開されて、エリック王太子に寄り添っていたピンク髪のユーミア=クローバー男爵令嬢が新たな婚約者となると宣言された。
新たな婚約者であるユーミアは、美の神の祝福を授かった光り輝く美貌の持ち主であり老若男女を問わずその美しさの虜にしていた。一介の孤児から男爵家の養子となり、その美貌でついに王太子の婚約者にまで上り詰めることとなった令嬢であり通常であれば反感を受けるところであるが、この国では美しさが尊ばれる風習が強く若い貴族を中心に王太子との婚約は好意的に受け止められることとなった。
一方で断罪されたソニアは、決して醜くはないが美男美女の多い貴族社会では平凡すぎるぱっとしない容姿であることから家族でさえよそよそしく接していた。
政治的な兼ね合いから王太子の婚約者となった後も、エリックがソニアの容姿をひどく嫌っていた事もあり、城中の人間から見下される日々を送ってきた。
そして、やってもいない罪で捕えられ、誰からの助けもないままに明日国外追放される。
「なぜ私だけこんな扱いを受けなくてはならないの…もう疲れた…」
ソニアは地下牢の冷たい石畳に座り、ひとりつぶやいていた。
感情のないその顔には、人生の総てを諦めているのか涙さえうかんでいない。
本来であれば、罪に問われたとしても貴族である限りは貴族牢に入れられるが、あり得ないことにソニアはカビ臭い一般牢に入れられていた。
そのことを皆が当然だと思っているということだ。
「『ざまぁ』しゅる?」
「えっ…」
誰もいないはずの牢内で、舌っ足らずな子供の声が聞こえた。
ソニアが振り向くと、小さな男の子がニコニコ顔で自分を見上げていた。
「あなたは誰?」
「ぼくはね、『ざまぁのかみ』っていうの。おねぇちゃんはりふじんにひどいことされてるから、ぼくにいのってくれればたすゅけてあげりゅよ。」
ソニアは混乱した。
こんな牢の中に幼子が居るはずないし、しかも自分のことを神だと言っている。
この国は創造神を中心に多くの神を信仰しているため、貴族の教養としてすべての神について学ぶ。しかし『ざまぁの神』なんて聞いたことがない。
なので当然のこととして言ってしまった。
「『ざまぁの神』なんて聞いたことがないわ。」
「でも、ぼくかみしゃまだもん…」
子供は、みるみるうちに大きな瞳に涙をあふれさせながら答える。
泣くのを堪えるためか、かわいらしい口はへの字にぎゅっと結ばれている。
それを見たソニアは大慌てだ。これまでに見たこともない程かわいい男の子が自分のせいで瞳をうるうるさせ泣いているのだ。
なんとかこの子を泣き止ませて笑顔にすることが、私に課せられえた使命だわと思ってしまった。
これも神の御業というのだろうか、自身が冤罪で牢に入れられていることさえもどうでもいい。
ソニアの心にあるのはひとつの思いだけだ、この『尊い』子供の笑顔を取り戻すそれに尽きる。
その為にも、この子の望んだように祈らなくてはいけない。ソニアの優秀な思考回路はすぐに最善の答えを導き出す。
「私ソニア=ローズスターは、ざまぁ神様を信じ『ざまぁ』を望みます。」
膝をつき、胸に両手をあてて子供に祈りをささげた。
すると子供はほんのりと光を発しながら、この世の可愛さ全部を集めたような笑顔でニッコリと宣言した。
「しょのいのりをききいれ『ざまぁ』をしっこうしましゅ。」
その後、サンフラワー王国は建国以来の大騒動となる。
「うそつきはだめでしゅ。」
この言葉により、末の弟を可愛がっている『真実の神』が動いた。
『真実の神』から神託があり、王太子を始めとする貴族達が神殿に呼ばれてソニアの虐めが冤罪であったことが明らかにされた。
この国では神への信仰が深いので神からの神託は重く受け止められる。
ソニアはすぐに釈放されて、嘘の罪をでっちあげた者達からの謝罪を受けた。
それでも内心ではソニアが美しくないのがいけないと思っている傲慢な貴族が多くおり、冤罪事件を起こした者への罰は形だけのものとなりそうな雰囲気となっていたが、そんな中で、国王だけは今回の事件を重く受け止めてエリックを廃太子とした。
「父上、この程度のことで廃太子とは酷過ぎる、ソニアが醜く私に相応しくないことが今回の原因です。私は悪くない。」
「廃太子となったのは、お前の心の醜さゆえのこと。外見の美しさにばかりこだわり真実を見ることのできぬものに王は務まらぬ。しかも今回は神が見ているのだ、その意味がわからぬのか。」
国王はエリックを叱咤し、第2王子を王太子にしてソニアをその婚約者とすると発表した。もちろんエリックとユーミヤとの婚約は神の意志に反するとして取り消された。
しかし、国王の言葉を受けてもエリックは納得せず、ユーミアや取り巻きの貴族子息を自室に呼んで愚痴をこぼしていた。
王妃の座にあと一歩であったユーミアも、王太子との婚約が取り消されて不貞腐れて不平不満をこぼす。
「国王様は何を考えているのかしら。神の介入があったとしても、私は美の神に選ばれた者なのよ。」
「王子達の中で一番美しい自分が国王となり、美の神に愛されるそなたが王妃になるのが当然で皆が望むことだと言うのに父上にも困ったものだ。」
「そのとおりです。殿下とユーミア様が結ばれるべきです。」
「『真実の神』は真実を明らかにしただけであって、醜いソニアをかばった訳ではないというのに国王はどうかしている。」
エリック王子達が飽きもせずに不平不満を言い合っていると、突然に部屋全体が光に溢れてどこからともなく子供の声が聞こえた。
「ここりょがうつくしくないでしゅね。『ざまぁ』おかわりでしゅ。」
「そうね。この者たちは、姿かたちが美しくても心の醜さで魂が歪んでいて美しくないわ。」
子供の声に続いて鈴を転がすような美しい女性の声が聞こえると同時に、そこにいた者達は意識を失った。
王子の部屋の異変に気付いた護衛達が部屋へ入ると、全員が倒れているのが発見された。
すぐに医官が呼ばれ診察したところ毒など身体の異常は見られないにも関わらず、その顔は大きく変貌していた。
全員がシミやしわ、吹き出物などで酷い有様となっており、特にエリック王子とユーミアは元の面影がわからない程の醜さであった。
王城でそんな事件があった翌日、『美の神』の神殿で神託がくだされた。
「魂の美しさは姿の美しさ。心の醜い者はそれに応じた醜さとなり、心の美しいものはより美しくなるでしょう。」
王国は大混乱に陥った。
急に醜くなった者が家に閉じ籠る一方で、これまでバカにされていた者が突然に美しさを手に入れることとなったりとこれまでの価値観が根底から崩れ去ってしまったのである。
人々は、今回の結果をもたらした新たな神である『ざまぁの神』の力を身を持って実感し、畏れ敬うこととなった。
所変わって天界の談話室では、末っ子の『ざまぁの神』を囲んで、兄弟神達が集まっていた。
「ぼく、おしごとじょうずにできたかなぁ?」
「ええ。とっても上手にできたわ。今回助けたあの娘が中心となってあなたの神殿も建設されることになったから、きっと信者も増えるわ。」
美の神は、弟を膝に乗せてご機嫌で答えた。
そして、えへへと照れ笑いをする弟を見て、「尊すぎる…」と悶絶している。よだれがこぼれそうな締まりのないその顔でさえ美しく見えるのだから、美の神とはよくぞいったものである。
「今回の件で神への信仰心が爆上がりだね。特に『真実の神』の兄さんと『美の神』の姉さんは信仰心も増えて、可愛い弟と一緒に仕事ができるなんて狡すぎるよ。次は僕が手伝うからね。」
末っ子大好きな『芸術の神』はブチブチと文句を言い続けているが、いつものことなので他の兄弟神はスルーだ。
「それにしても、あの国今後大丈夫ですかね。民は1割ほどが変貌しただけなのに貴族は7割が醜くなってますよ。」
「そうね。特に高位貴族のなかには二目と見られない顔になった者も沢山いるわね。」
弟を抱っこして悶絶している『美の神』と、僕も一緒に仕事がしたかったと恨めしげに二人を見ている『芸術の神』を横目に、兄弟神達は雑談を続ける。
「でも、国王と第2王子は以前よりも美しくなってるから大丈夫じゃない?正しい国王がいればやり直しが出来るよ。」
「おねぇちゃんもすごくきれいよ。」
ちゃんと話を聞いていたのか、末っ子がニコニコ顔で口を挟んできた。
「そうね、あの娘は最近では珍しいくらいに綺麗な魂の持ち主だったもの。美の神の加護も授かったようだし、きっとこれから幸せになれるわ。」
「でも、あの娘『ざまぁの神』の神殿の神官になるって言って第2王子との婚姻を断ってましたよ。国一番の美人がもったいないって家族が嘆いてます。」
「あの家族も全員醜くなっちゃったものね。全部ひっくるめて『ざまぁ』ってことね。」
「それはいいとして、あの娘大丈夫かしら。新しくできた弟の神像にむかって『尊い…』って惚けた顔でつぶやいてるけど。」
「…」
「…」
「うん。うちの末っ子が可愛いすぎるってことだよ。きっと。」
新しく末っ子の神を迎えた天界は今日も賑やかです。
この作品をお読みいただき有難うございました。
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