第4話:告げられる真実、蠢く地下の意思
俺たちが“ボス”を倒したのはほんの数分前のことだった。
けれど、加賀谷の言葉が落とした冷たい水滴のように、静かに、けれど確実に胸の奥を冷やしていく。
>「最初から命令で来た。お前らみたいな“新規個体”は貴重なデータだ」
「……ふざけるなよ。じゃあ俺たちは、何なんだよ? 実験動物かよ」
「そうだな。正確には“観察対象A群:自然覚醒者”……だそうだ」
加賀谷は、ポケットから取り出した端末を軽く振る。
電波の通じないはずのダンジョン内で、それは確かに情報を送受信しているように見えた。
「《プロジェクト・リビルド》。この国が進めている“対ダンジョン化適応政策”のコードネームだ」
「どういうこと……?」
明莉が怯えたように呟く。加賀谷は少し間を置いてから話し出す。
「10年前から、地下世界の一部で“変異空間”の兆候が観測されていた。
だが、今年に入って日本国内に“実ダンジョン”が複数観測された。現段階では秘匿されているが——」
「この“新宿地下”は、その一つだってことか」
俺がつぶやくと、加賀谷は静かに頷いた。
「……しかもこれは“自然発生型”。他に“人工誘発型”の実験場も存在する。
今、政府はこういう“異常空間”で通用する兵士を育てようとしている」
「それでも俺は——戦って、生きて、外に出たい」
その言葉が俺の口から出たのは、反射的だった。
俺が感じていたのは怒りか、あるいは“使命感”か。もはや自分でもわからなかった。
加賀谷は、それを少し見直すような目で見た。
「なら、利用されても利用し返せ。俺たちは今、武器になった。
それをどう使うかは……お前ら次第だ」
そのときだった。
突如、周囲の空間に“揺れ”が走る。
地鳴りのような音が、ダンジョンの奥から聞こえてきた。
「な、なに!?」
「……来たか。下層の存在が、こちらを“認識”したな」
「下層の……存在?」
「このダンジョンには、“意思”があるらしい」
加賀谷が低く言う。
「ダンジョンは空間じゃない。“生きてる”。それどころか、こちらを“学習”している。
それが何を意味するか……次の階層で分かるだろう」
直後、ゲートが不気味にうねり、新たな人影が飛び込んできた。
「——おい、そこの連中! 生きてるなら返事しろッ!!」
現れたのは、高校のブレザーを着た少年だった。
息を荒くし、手には赤黒い斧のような武器。そしてその後ろには、眼鏡をかけた少女が一人。
「お前たち、覚醒者か?」
「……ああ」
俺が答えると、少年は目を見開いた。
「良かった……! やっぱり、俺だけじゃなかったんだな……!」
◆新キャラクター紹介
◎白石 朔也
・高校三年生。自己流でスキル「戦斧召喚」「狂化加速」を習得
・カッとなりやすい熱血バカ系。だが根は真面目で面倒見が良い
・妹をダンジョンに置き去りにしたという“罪悪感”を抱えている
◎水野 凛子
・文芸部所属。分析型スキル「幻視記録」「因果読解」を持つ知性派
・普段はおとなしいが、怒ると怖い。白石とは中学からの腐れ縁
「……少しだけ、希望が見えてきたかもな」
俺たちは知らない。
この出会いが、この後の**“裏切り”と“覚醒”**に直結していくことを。
そして、まだ見ぬダンジョンの支配者が、ゆっくりと目を覚ましつつあることを。