第3話:ダンジョン初階層、ボス戦開始
「こっちだ。俺が案内する」
スーツ姿の男――**加賀谷 仁**は、俺たちを引き連れて、かつての新宿メトロモールの奥へと進んでいく。
その顔には焦りと、どこか“熱”を秘めた奇妙な笑みが浮かんでいた。
「お前ら、スキルは使えるんだな? だったら戦力としてカウントする」
「おい……あんた、何者だよ。なんでそんなに状況に慣れてる?」
俺が疑問をぶつけると、加賀谷はふっと笑った。
「元・自衛隊特殊任務部隊。今は“ダンジョン対応局”所属だ。
とは言っても、今回の件は“未確認”。俺も巻き込まれた一人に過ぎんよ」
――ダンジョン対応局?
聞いたことのない組織名に引っかかるが、今は追及してる場合じゃない。
「やつがいるのは、この先。ボス格だ。倒せば……“次の階層”への扉が開く可能性がある」
俺たちは、朽ちたエスカレーターを降り、地下二層に広がる巨大ホールにたどり着いた。
薄暗い空間の中央に、巨大な影が座していた。
それはまるで、獅子と人間が融合したような異形の魔物。
全身は黒い鎧のような皮膚に覆われ、肩から突き出た骨の翼が、不気味にうねっていた。
>《ボスモンスター《魔獣グローム・リオン》 Lv.12 が出現しました》
>《周囲の魔力濃度が上昇中。スキル効果強化が確認されました》
その声は脳内に直接響いた。
警告のようでもあり、試練の開始を告げる合図でもあった。
「構えろッ! 来るぞ!」
加賀谷が叫んだ次の瞬間、グローム・リオンが突進してきた。
信じられない速さ。壁を破壊しながら、咆哮と共に跳躍――!
「くっ……《魔装剣》!」
俺の右腕に黒剣が展開される。咄嗟に迎撃、剣と爪がぶつかり、火花が散った!
ズガァン!!
吹き飛ばされる。壁に叩きつけられ、視界が揺れる。
「……強すぎ、だろ……!」
「響くん、下がって!」
明莉が後方から手をかざす。光が弾ける。
「《ライト・バリア》!!」
聖なる光の障壁が、グローム・リオンの攻撃を逸らした。だが、完全に防げてはいない。
耐えるだけでは、やられる。
加賀谷が一閃。鉄パイプが紫電をまとい、グローム・リオンの足を叩き斬る。
「食らえ、俺の《衝撃加速》!」
——瞬間、彼の体が“消えた”。
……いや違う。“加速”したんだ。まるで弾丸のように、加賀谷はボスの腹部に突撃。
肉が裂け、血しぶきが舞う。
「こいつの弱点は“再生能力”。長期戦は不利だ。畳みかけるぞ!」
俺は、脳内に流れ込む“スキルの選択肢”を探る。
>《新たなスキル選択可能:斬撃強化/血刃連撃/魔力斬裂》
「選べる……いや、欲してるのか、俺の体が……!」
俺は無意識に呟いた。
「……《魔力斬裂》ッッ!!」
剣が形を変える。黒い光が刃から伸び、巨大な一太刀へと変化した。
俺はグローム・リオンの背後を狙って跳躍、一閃——
ズバァンッ!!
裂けた。魔物の背中が、深々と切り裂かれた。
叫び声を上げてのたうつグローム・リオン。そこへ加賀谷が再び打ち込む。
「トドメはお前だ、神薙!」
「おおおおおおおッ!!」
俺の剣が、魔物の喉を斬り裂いた——!
魔物が崩れ落ちると同時に、天井から光の柱が差し込む。
空間の中央に、石造りの“ゲート”が現れた。
>《階層制圧完了:次層への進行権限を付与》
>《報酬:スキルポイント +1、魔晶石×5、称号《討伐者》獲得》
ようやく、終わった。
崩れ落ちる俺の横で、明莉が駆け寄ってくる。
「響くん! 無事……無事だよね!?」
「ああ……なんとか、な……」
だが、その瞬間だった。
加賀谷が、俺たちに背を向けて言った。
「……よかったな、初勝利だ。これで、お前らも“戦える兵器”になった」
「え?」
その口調が、どこか異様に冷たかった。
「俺は……知ってる。これから始まる“日本全土のダンジョン化”に備えて、上は“覚醒者”を確保しようとしてる。
お前らみたいな“新規個体”は……貴重な“データ”だ」
「……おい、何の話を——」
「そのために俺はここに来た。最初から、命令でな」
加賀谷の笑みが歪んだその瞬間、背後のゲートが開いた。
次の階層。闇の奥から、何かが俺たちを“見ている”気配がする。