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第2話:覚醒者、そして生存者

剣が消えてから、どれくらい経ったのか。

 俺、**神薙響かんなぎ ひびき**は、さっき倒した“骨の魔物”の亡骸を前に、しばらく動けなかった。


 心臓の鼓動が、まだ収まらない。

 あれは現実だった。目の前で、俺が、斬ったんだ。


「……冗談じゃ、ねえよ……」


 でも、それ以上に恐ろしいのは——


 俺が、その実感にもう慣れ始めているということ。


 あの瞬間、確かに、何かが俺の中で“開いた”。


 洞窟の通路を、俺は慎重に進んだ。

 何かの拍子で“魔装剣”がまた出てくれる保証はない。だけど、進むしかない。


 しばらく歩いた頃だった。

 微かに、人の声が聞こえた。


「……誰か! 誰かいませんかッ!?」


 声の主は、通路の先にある、崩れかけた商業施設のような空間にいた。

 壁には「Metro Mall SHINJUKU」の文字。かつての新宿地下通路の名残だろうか。


 その中心にいたのは、一人の少女だった。


 高校の制服姿。うずくまって震えていた。

 周囲には、すでにいくつもの魔物の死骸。自力で倒したとは思えない。


 俺は警戒しつつ、声をかけた。


「おい、大丈夫か……?」


 少女がこちらを振り向く。

 大きな瞳。涙の跡。だけど、意志は強い。


「……あなた、生きてるの……? ほ、他にも……生きてる人……」


「ああ。俺は神薙響、予備校生。そっちは?」


「篠原……明莉。高校二年。アイドル志望だったの……でも、今はそんなの……関係ないよね」


 彼女も、このダンジョンに飲み込まれた生存者の一人だった。

 さっきの魔物から逃げ続け、偶然、この空間にたどり着いたらしい。


「ねぇ……ここ、本当に新宿なのかな」


「……俺もわからない。でも、あの魔物、そして……これ」


 俺は地面に転がる“結晶体”を拾って見せた。

 さっき魔物を倒したとき、必ずドロップした、紫色に輝く欠片。触れると、脳裏に“スキル情報”が流れ込んでくる。


 >《魔晶石マギアストーン:スキル獲得・魔力補給に使用可能》

 >《一定量を集めることで、能力成長が促進されます》

 >《スキルは覚醒者のみ使用可能。未覚醒者には影響なし》


「……つまり、あんたも」


「うん。さっき、怖くて……でも、“光れ”って叫んだら、ほんとに……魔法みたいなものが出て……」


 彼女が手を差し出すと、小さな光の粒が集まり、暖かな輝きが浮かんだ。

 ——《治癒魔法》だ。


「スキルの使い方は、なんとなくわかる。脳の奥に、最初から“使い方”があるみたいで」


 「これが“覚醒者”ってことか……」


 俺たちは、“普通の人間じゃなくなった”。

 けど、それは生き残るための最低条件だ。


 「とりあえず、安全な場所探さねえとな」


 「仲間……他の人、探さなきゃ。まだきっと、生きてる」


 篠原明莉は、震えながらも強く言った。

 その声を聞いて、俺は覚悟を決める。


 このダンジョンには、まだ他にも人がいる。

 この力が、誰かを守れるなら——使う価値がある。


 その直後。


 通路の奥から、何かが“歩く音”が聞こえた。

 だがそれは、魔物の足音ではない。明らかに、人間の足音だ。


「おい、お前ら! 生きてる奴か!?」


 姿を見せたのは、スーツ姿の男。手には、血まみれの鉄パイプ。

 片腕に包帯を巻いたその男は、俺たちを睨んで言った。


「お前ら、覚醒者か? なら話は早い。俺と組め。仲間が……やられた。今すぐ、あの化け物を倒すぞ」


 その男の名は、加賀谷 仁。

 このあと、俺たちの運命を大きく変える存在となる——。

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