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異世界の聖女を母に持つ私は、亡国の姫として生き延びる  作者: 雪沢 凛
第三章:皇権の盤上

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(80) 光を導く者

 だが、彼は焦りを表に出すわけにはいかなかった。

  あまりにも取り乱してしまえば、それはもう「彼らしくない」。


 だからこそ、サイラスは胸の奥の高鳴りを必死に押さえ込み、いつものように気だるげな笑みを浮かべた。


  そして、ふと顔を近づけると、軽く茶化すような口調で言った。


「それで……これはいかなる言葉を俺に示すつもりか?」


 彼は、彼女が照れて否定したり、顔を赤くして怒ったりすることを期待していた。

  そうすれば、いつものようにからかって、余裕の態度を保てると思っていたのだ。


 だが——

 今回のエレは違った。


 彼女は目を逸らすこともなく、照れた様子もなく、ただ静かに顔を上げて、真っ直ぐにサイラスの瞳を見つめ返した。

  その声は驚くほど落ち着いていて、確かな意志が宿っていた。


「ええ。だって……ここまで来て、あなたの気持ちに気づけなかったら、さすがに鈍すぎるでしょ?」


 サイラスの笑みが、一瞬だけ固まった。


 彼は言葉を失ったまま、じっとエレを見つめる。

  彼女の言葉が冗談でも感情の衝動でもなく、深く考え抜かれた末の「答え」だと、その瞬間ようやく理解した。


 本当に……迷いなく認めたのか?


「……君は思った以上に率直なり。」

  ようやく絞り出すように呟いた声には、どこか複雑な色が混じっていた。


 するとエレはふわりと微笑み、まっすぐな瞳で言った。


「わかったことがあるなら……もう逃げなくていいでしょ?」


 サイラスは返す言葉を持たなかった。


 ふと、遠い記憶が胸をよぎる。

  それはまるで、夢のように曖昧で、それでも心の奥深くに残り続けていた光景だった。


 幼い頃の自分は、いつも下を向いていた。

  誰とも目を合わせず、世界とつながることすら恐れていた。


 けれど、あの子だけは——


 彼の手を引いて、薄暗い角から外の世界へと連れ出してくれた。


「どうして顔を上げないの?」

  あのとき、彼女はそう言いながら、小さな手で彼の頬を包んだ。

  「君の目、すごく綺麗だよ。太陽みたいに明るくて。」


 ——太陽みたいに明るかったのは、彼女自身だった。


 サイラスの喉がかすかに詰まり、無意識に指先が震える。


 彼は自分がエレのことを理解しているつもりでいた。

  だが、この瞬間に気づく——本当に思い出したのは、彼女が「ずっと変わらない人」だということ。


 闇に呑まれても、彼女は決して立ち止まらない。

  未知のものに直面しても、彼女は後ずさりしない。


 そして、サイラス自身はというと——


 彼は今回の再会を、自分が彼女を導く立場だと思い込んでいた。

  だが実際には、何年経っても彼の先を歩き、光の方へ導いてくれていたのは——


 エレだった。


 彼の胸が静かに震えた。

  心の奥にあった何かが崩れ、そして新たな輪郭が静かに形作られていく——

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