(78) 再会
サイラスは大広間の扉を押し開け、懐かしさとどこかよそよそしさが混じる空間に足を踏み入れた。
視線はすぐに、部屋の中央に立つ二つの人影に向けられる。
ノイッシュとアレックだった。
彼が入ってきた瞬間、二人は同時に振り向き、まず一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに安堵の息を漏らした。
「カイン様……」
ノイッシュが口を開きかけたが、すぐに状況を思い出し、慌てて言い直した。
「あ、いや……今は何とお呼びすればいいんですかね?殿下?」
「そうだな、今となってはちゃんと呼び方を変えるべきか?」
アレックが眉をひそめ、ややからかうような口調で言った。
「“遊び人のカイン様”が、実は高貴なる王族の御子息だったとはね。」
ノイシュは腕を組み、わざとらしく首を振った。
「“ブレストのカイン”、“エドムンド侯爵の養子”、“辺境の酒場オーナー”、そして“帝国の王子”……
一体いくつ肩書きがあるんですか、サイラス殿下?」
サイラスは思わず目を転じた。
「……お前ら、いつからそんな皮肉を言うようになったんだ?」
「いえいえ、そんなつもりじゃ……」
アレックは急いでノイッシュの脇腹を蹴りながら、口調を少し改めた。
「まだ慣れてないだけさ。」
サイラスは二人の軽口を無視して、近くの椅子に腰を下ろし、額を揉みながらつぶやいた。
「……それで、今はどういう状況なんだ?俺はここに運ばれた記憶がない。」
その言葉に、ノイッシュとアレックは目を合わせ、少し真剣な顔つきになった。
「その後、エドリック殿下が軍を率いて現場に到着しました。」
アレックが静かに語り出す。
「俺たちが到着したときには、ラファエットは完全に撤退していて……追うことはできませんでした。」
「それで、エドリック殿下の判断で俺たちは帝都に戻ることになったんです。」
ノイッシュが補足する。
「その間、あなたはずっと目を覚まさなかった……俺たちは正直……」
彼はそれ以上言葉を続けなかったが、その沈黙がすべてを物語っていた。
サイラスは静かに目を上げ、二人を見渡す。
彼らの瞳に浮かぶ心配の色を読み取り、やれやれと言わんばかりに口元を歪めた。
「……まさか、俺が死んだと思ったのか?」
「……ただ、心配だっただけです。」
アレックが低く答えた。
サイラスは一瞬だけ黙り込み、それから小さく溜め息を吐いた。
「……無事だ。ただ、まさかこんな形で“帰る”ことになるとはな。」
この帝都。この、かつて過ごした場所。
そして今、彼は再びそこへ戻ってきた。
「……エレは?」彼は視線を戻し、静かに問いかける。「彼女はどこに?」
「エレ様とリタ嬢も一緒にここまで来ています。」
ノイッシュが答える。
「エドリック殿下が、別の宿所を用意されました。」
サイラスは数秒思案するように黙り込み、それからすっと立ち上がった。
「……彼女のところへ連れて行ってくれ。」
彼には、まだ話すべきことがある。




