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異世界の聖女を母に持つ私は、亡国の姫として生き延びる  作者: 雪沢 凛
炎と鉄、そして狩人の極限

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(70) 異世界の爆炎

 サイラスが動いた。


 ほとんど一瞬だった。

  迷いのない鋭い踏み込みで、彼は一気に戦場の中心へと躍り出る。

  後方のエレたちから距離を取り、自らを最大の「脅威」として晒しに行ったのだ。


「ノイッシュ、アレック!」

  低く鋭い声が飛ぶ。

  「彼女たちを守れ!」


 ——やつらが欲しているのはエレ。

  ならば、自分が“最も危険な存在”になればいい。

  全ての視線と殺意を、この身に引きつけるために。


 剣が閃き、最初の敵を迎え撃つ。


 鋼と鋼がぶつかり合う音が、荒野に鋭く響き渡る。


 サイラスの一撃一撃は、まるで狙い澄ました獣の牙。


  彼の琥珀色の瞳に迷いはなく、すべての斬撃が急所を狙う——

  これは防御ではない。純然たる“狩り”だ。


「っ……なんだ、こいつは……!」


 百戦錬磨のサルダン護衛たちでさえ、彼の猛攻には押されるばかり。

  後退を余儀なくされ、陣形が崩れ始めていた。


 だが、ラファエットはただ微笑みを浮かべている。


 まるで、目の前の命のやり取りを一幕の舞台劇でも見るかのように。


「……なんと美しい狩りだ。」

「だが、狩人殿——あなたの“獲物”は、ちゃんと守れるのか?」


 戦場は混沌と化す。

  剣の軌跡が閃き、甲冑が裂け、叫びが上がる。


 サイラスの剣は無駄がない。

  手首、首筋、関節——その全てを迷いなく斬り込む動きは、

  一瞬の隙さえ許さない。


 ひとりの護衛が防御を試みた瞬間、鋭い刃が彼の手首を裂いた。

  呻き声を上げて後退する間もなく、サイラスは反撃の剣を振るい、

  そのまま彼を地面に叩きつける。


「くっ……!」


 別の護衛がすぐに補足するも——

  サイラスは僅かに首を傾けただけで、刃を頬にかすらせ、

  一歩踏み込むと、その肩口を真っ直ぐに斬り裂いた。


「咬め!」

 ノイッシュの叫びと共に、側面から鋭い突きが飛び出す。

  アレックは既に敵の横から回り込み、剣を振り上げ盾で鎧を弾き飛ばす——


「さすが帝国騎士……面白い。」

 ラファエットは軽く手を叩き、愉しげに戦場を見守る。


 だがサイラスは、一切応じない。

  ただ、鋭い視線で全体を見渡しながら、冷静に狩場を掌握していく。


「来い。」

  低く呟き、剣を握り直す琥珀の瞳が光る。


  だがその瞬間——


「ドンッ!!」


 轟音が戦場を切り裂いた。

  空気が震え、硫黄と焦げた土の匂いが一瞬にして広がる。


 爆発の衝撃が彼の頬をかすめ、細く浅い裂傷が刻まれた。


「……何だ……?」


 それは弓でもない。

  弩でもない。

  それらをはるかに凌ぐ速度と破壊力。


 ラファエットは静かに銅製の筒を見下ろし、

  そこからまだ黒煙が立ち昇っているのを確認すると、

  少し首を振り、皮肉めいた笑みを浮かべた。


「やはり……異世界の“火槍”の模造品では、まだまだ粗いですね。」


 サイラスの瞳が鋭く細まる。


 ——こいつら、異世界の“祝福”だけでなく、

  その技術すら奪おうとしているのか。


「カイン!」


 震えるような声が戦場に響く。

  エレが叫んだ。血を流す彼の姿に、思わず駆け寄ろうとしたその時——


「来るな!」


 サイラスの鋭い声が飛ぶ。

  琥珀の瞳はひたすらに、ラファエットを睨み据えていた。


 次の瞬間、サルダンの護衛たちが動いた。


 彼らは素早く後退し、距離を取りつつ、腰から取り出したのは——

  銅製の筒。火口の先端が冷たく光り、火種を灯した棒が震える手元で揺れた。


「ふふ……」

  ラファエットは両手を広げ、余裕の笑みを浮かべながら呟く。


「カイン様、あなたがどれほど強かろうと……その“数発”を避けられるとでも?」


 サイラスは顔の血を拭い、指先が僅かに震えていた。

  しかしその瞳には、すでに冷徹な思考が渦巻いている。


 ——弓なら軌道が読める。剣なら受け止められる。

  だが、これは……一瞬で命を奪う“宣告”。


 ……ならば、破綻を見つけるまでだ。


 護衛の手元、火種と銅管の間——

  “点火が必要”か……!


 これは、まだ未完成の兵器。


「撃て!」


 ラファエットの声が鋭く響いた。

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