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異世界の聖女を母に持つ私は、亡国の姫として生き延びる  作者: 雪沢 凛
未来の岐路

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118/194

(118) 侯爵の試探

 馬車が侯爵邸に到着した頃には、すでに夜の帳が下りていた。

  灯火に照らされた古典的で重厚な建築は、華美さこそないものの、由緒ある貴族の屋敷らしい威厳を感じさせる。


 サイラスとエレが馬車から降りると、屋敷の前にはすでに執事たちが整列し、丁重に出迎えた。二人は案内に従い、広々とした晩餐室へと足を運ぶ。


 長いテーブルの上には揺れる燭光が照らされ、銀の食器が淡い光を反射していた。

  すでにテーブルの奥には、エドムンド侯爵が待っていた。


「殿下、エレノア様。ようこそお越しくださいました。」


 エドムンドは穏やかな笑みを浮かべながら立ち上がる。

  彼は派手すぎず、それでいて品格を損なわない礼服に身を包み、立ち居振る舞いには常に一貫した落ち着きがあった。


 サイラスは気楽な様子で椅子を引き、腰を下ろすと口元を緩める。


「エドムンド侯爵、てっきり今夜は家族での食事かと思っていましたが……お一人とは意外ですね。」


 エドムンドは軽く首を振りながら微笑んだ。

「妻のイザベルと娘のフレイアは、舞踏会に招かれておりましてね。本日は静かに、殿下とお話しできる機会を設けさせていただいた次第です。」


 その視線はエレに向けられ、温かな声で続ける。


「エレノア様、どうか今夜はご自宅のように、肩の力を抜いてお過ごしください。」


 エレは控えめに微笑み、丁寧に一礼した。

「ご配慮、感謝いたします。侯爵様。」


 侍者が前菜を運び始める中、エドムンドはあくまで雑談のように語りかける。

「そういえば……イザベルたちが帝都に来たのも、あの婚約舞踏会への出席が主な目的でしてね。」


 それを聞いたサイラスの手が一瞬止まり、だがすぐに軽く眉を上げて笑った。

「そうだったんですか……」


 エレは少し驚いたように彼に視線を向ける。

「あなた、そのこと知らなかったの?」


 サイラスは気にする様子もなく肩をすくめた。

「招待状は届いてたけど、ただの舞踏会かと思って断ったよ。……ロイゼルに着いてから、ようやく事情を聞いた。」


「昔から、こういった貴族の催しごとには興味がない方でしたからね。」

 エドムンドは苦笑交じりに言い、サイラスはそれに否定せず目を伏せた。


 王太子の婚約。それがどんな政治的意味を持とうと、表面的には彼に関係のない話だ。だが、もし背後に策略があるのなら、無関心ではいられない。


 エレは黙ってそのやり取りを見つめていた。

  この晩餐会がただの歓談ではないことは、空気の端々から察せられる。


 料理が一通り並んだところで、エドムンドの表情が徐々に真剣なものに変わっていく。

  彼はナイフとフォークをそっと置き、口を開いた。


「さて……。宴の話はこの辺にしましょうか。今宵お招きしたのは、他でもない。もっと重要な話をするためです。」


 サイラスは杯を指で回しながら、エドムンドを見つめる。

  その表情には変わらぬ微笑が浮かんでいるが、内心の警戒は解かれていない。


「お聞きしましょうか、侯爵殿。」


 エドムンドは穏やかなまま、しかしその語調には明確な意志が宿っていた。

「――君の未来について、だよ。サイラス。」


 サイラスは一度、杯を置き、静かに視線を戻した。

  エドムンドはためらうことなく言葉を続ける。


「……レオンが君と接触したと聞いた。」


 サイラスは片眉を上げる。

「さすが侯爵様、噂には敏い。」


「帝都では、隠し事などそう長くはもたないよ。」

 エドムンドは柔らかく笑みを浮かべたが、その目は冴え渡っていた。


「彼の狙いは明白だ。武装派の“顔”として、君を据えることだろう。」


 テーブルの向こうで、エレの手がわずかに止まり、サイラスに視線を投げかけた。

  だが彼の表情は、やはり揺らがない。


「……では、侯爵様はそれをどうお考えで?」

 サイラスの問いに、エドムンドは微笑のまま、次の言葉を選ぶように一瞬だけ黙した。

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