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異世界の聖女を母に持つ私は、亡国の姫として生き延びる  作者: 雪沢 凛
帝都・赤獅堡

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105/194

(105) 剣光の邂逅

 ヴェロニカが構えを取ると、周囲の騎士たちは一斉に息を呑んだ。

  彼らはこの試合がただの模擬戦ではないことを理解していた。


  ヴェロニカは帝国秘密機関の精鋭であり、学園時代からトップクラスの剣技を誇っていた。そして、彼女の相手——この得体の知れない男。彼の実力は未知数だが、只者でないことは誰の目にも明らかだった。


「始めッ!」

  審判の号令が響いたその瞬間、ヴェロニカが動いた!


 彼女の身は疾風のように駆け抜け、ほぼ一拍の隙もなく剣が閃く。

  五つの銀光が、まるで流星のようにサイラスへと襲いかかる——鋭く、速く、的確な斬撃。その一撃一撃が、鋼のような鋭さで彼を捉えに来る。


「速いっ!」

  群衆の中から思わず声が漏れる。


 だが、サイラスはその圧倒的な連撃を前にしても、まったく動じなかった。

  彼は一歩、滑るように後退し、まるで最初から動きのパターンを読んでいたかのように、流れるような動作で迎え撃つ。


 キィンッ!

  一撃目を鋭く横払いで受け流す。


 ギン、ギン!

  二撃、三撃目を最小限の動きで躱し、鋭い軌道を巧みに逸らす。


 四撃目では、ヴェロニカの刃が彼の頬をかすめるほど接近したが、サイラスは後退せず、わずかな身の傾きだけで致命の一撃をかわした。


 そして五撃目——

  彼女は手首を返し、剣先を一瞬で切り替え、サイラスの腹部を狙う!


 周囲の誰もがその一撃が命中すると思った、その瞬間——

  サイラスの剣がまるで幽霊のようにその進路に現れ、完璧な斜め防御で五連撃のフィニッシュを止めた。


「……チッ。」

  ヴェロニカが眉をひそめる。ここまで彼女の連撃を軽々と受け止めた相手など、何年ぶりだろうか。


「悪くない連携だったよ。」

  サイラスは笑みを浮かべながら剣を構え、琥珀色の瞳に興味深げな光を宿す。

  「でも——速さが、ちょっと足りないかな。」


 その言葉と同時に、彼が地面を蹴った。

  疾風のごとき突進、鋭く振り下ろされる一閃!

  ヴェロニカは思わず身を引いてその斬撃を回避せざるを得なかった。


 距離が開き、ふたりは互いの刃を構え直して対峙する。

  それぞれの剣に残る余韻が、戦いの濃度を物語っていた。


「アイツ……」

  見物していた騎士たちが顔を見合わせる。

  彼らは最初、サイラスをただの貴族と思っていた。しかし——今の一連の動きは、それを完全に覆した。


「剣技があまりにも洗練されすぎてる……」

  「ただ防いだだけじゃない。ヴェロニカの攻撃を受け流して、反撃している……一体何者なんだ……?」


 その時、人混みの中で誰かが低く呟いた。

  「待て……あの男……見覚えがある……!」


「えっ?」

  「知ってるのか?」


「“カイン・ブレスト”だよ……!」

  その男はごくりと唾を飲み込みながら、信じられないという顔で戦場のサイラスを見つめる。

  「軍事学院で首席だった、あの伝説の人物!」


「なにっ?!」

  驚愕が場内を駆け抜けた。


「ブレスト侯爵家の? あの世代の卒業生で、圧倒的実力を誇ったあの怪物……?」

  「その年の上位三人——一位が彼、二位が王太子、三位が……」


 一斉に視線がヴェロニカに向けられる。


 ヴェロニカの表情には大きな変化はなかった。

  ただ、手に握る剣の力が、ほんの少し強まっていた。


「……今さら気づこうと、遅いぞ。」

  彼女は淡々と、しかしどこか苛立ちを含んだ声で言い放つ。


「これはまずい……」

  「ヴェロニカの相手が、よりにもよってあの“怪物”だったなんて……」


「これ、もう勝負ついたんじゃ……」

  すでに勝敗を予測する声も上がる。


 だが、二人の戦士にとって、そんな声はまるで届いていなかった。

  互いの視線はただまっすぐに交差し、戦意だけが静かに燃え上がる。


 サイラスは剣を軽く回しながら、口元に緩やかな笑みを浮かべる。

  「さて、まだ続けるか?」


 その口調は気だるげで軽い。だが明らかに、挑発していた。


 ヴェロニカも薄く微笑み、灰色の瞳に鋭い光を宿して答えた。

  「当然よ。これよりが本番だ。」

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