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異世界の聖女を母に持つ私は、亡国の姫として生き延びる  作者: 雪沢 凛
帝都・赤獅堡

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104/194

(104) 剣戟の試練

 赤獅堡には軍事工房のほかに、帝国騎士団の訓練場も併設されている。この広大な訓練場では、数十名の騎士たちが模擬戦闘を行っており、甲冑のぶつかる音や剣戟の響きが鳴り止まない。空気には汗と鉄の匂いが漂い、まさに実戦を想定した厳しい訓練が繰り広げられていた。


 ヴェロニカは場外からその様子を見つめ、口元にわずかな笑みを浮かべた。

  「ここが帝国騎士団の本部の一つ。精鋭騎士たちが鍛えられている場所よ。身分を戻す気がないなら、騎士団に入るも一策では?きっと歓迎されるわ。」


 サイラスは軽く笑い、腕を組んで答えた。

  「面白い提案だけど、騎士団の規律は俺にはちょっと合わないかな。」


  彼は訓練場を見渡しながら、ふと眉を上げる。

  「でも、ここの訓練風景……軍事学院を思い出すな。」


 ヴェロニカは頷き、少しだけ懐かしむような目で場内を見つめた。

  「たしかに……懐かしいわね。」


 しばらく視線を動かしていた彼女は、突然サイラスの方を振り向き、淡々と切り出す。

  「挑んでみるか?」


 サイラスは一瞬驚いたが、すぐに口元に笑みを浮かべた。

  「何を?」


「模擬戦よ。」

  ヴェロニカの声は冷静だが、灰色の瞳は鋭く光っていた。

  「学院の頃、一度もあなたに勝てなかった。今なら、もう一度挑戦する価値があると思って。」


 その言葉に、エレは静かに視線を向けた。何も言わず、ただサイラスの反応を見守る。


 サイラスは笑いを漏らし、どこか楽しげに言った。

  「本気か?俺は手加減しないよ。」


「望むところよ。」

  ヴェロニカは一歩前に出て、腕を組み直す。

  「それとも、怖いの?」


 サイラスは眉を軽く上げ、楽しそうな笑みを深める。

  エレの方を向いて問いかけるような目を向ける。

  「どう思う?」


 エレはやわらかく微笑み、穏やかな声で返した。

  「もし本当にやるなら……やりすぎないようにね。」


  少しだけ間を置き、静かに続ける。

  「だって、あなたは殿下だから。」


 その言葉に、サイラスは再び笑い、小さく頷いた。

  「じゃあ――やろうか。」


 ヴェロニカも静かに頷き、訓練場の一角へと歩き出す。二人の真剣勝負が、ここに始まろうとしていた。




 赤獅の旗が風に翻る中、ヴェロニカとサイラスが訓練場に立った瞬間、周囲で訓練していた騎士たちは次々と手を止め、彼らに視線を向けた。


「ヴェロニカが試合?」

  低くささやく声があちこちから聞こえる。


「彼女は今や帝国秘密機関に属しておるし、最近は剣を振るってる姿も見てないな……」

  誰かが興奮気味に言う。

  「でも、相手は……誰だ?」


 集まった騎士たちはサイラスを見やるが、彼の装いには軍階や所属の印はなく、服装は上質だが軍服ではない。その立ち振る舞いや雰囲気からは、ただの貴族ではないことが察せられたが……誰一人、その素性を知らなかった。


「構えを見ればわかる。ちゃんとした剣術を身につけた貴族だな。」

  慎重な騎士が低く言う。

  「ヴェロニカの相手を務めるくらいだから、只者じゃないのは確かだ。」


「ヴェロニカは強いよ。負けないはず。」

  若い騎士が少し緊張気味に言う。


「油断するなよ……」

  年配の騎士がサイラスの動きを注視し、渋い声で言う。

  「この男、素人には見えない。」


「ははっ、面白くなってきたな!」

  別の騎士が腕を組み、観戦体勢に入る。


 訓練場の空気は一気に熱を帯び、観客がどんどん集まってきた。訓練を監督していた教官までもが足を止め、この異例の一戦を興味深げに見守っている。


 サイラスは周囲の視線に気づき、辺りを一瞥してから小さく笑った。

  「どうやら、君の評判は上々みたいだな。」


 ヴェロニカは無表情で返す。

  「それはどうでもいいわ。」


 彼女は体を軽く斜めに構え、剣を抜き放つ。鋭い灰色の眼差しが、まっすぐにサイラスを射抜いた。


「準備はいい?」


 サイラスはわずかに肩をすくめ、にやりと笑う。

  静かに剣を抜き、構えた。


「これだけ注目されてるなら……見応えのある試合にしないとな。」

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