(102) おもちゃの真実
その時、エレも到着し、軽く息を整えながら地面の竹筒を見つめた。
彼女の目には、わずかに懐かしさの色が浮かんでいた。
「これ、花火のことではござらぬか?」
彼女は自然な口調で言った。
「私たち、王国にいた頃もよく見かけたじゃない、サイラス。覚えてないの?」
「花火……?」サイラスは眉をひそめ、少し首をかしげながらエレを見た。
その視線には思案の色が浮かんでいた。
彼は決して忘れていたわけではない——むしろ、その夜の記憶は彼の中ではっきりと残っていた。
——王都の夏の夜、盛大な祭り、灯りで満ちた通り、人々の笑い声、夜空に咲く光の花。
あの時、エレは淡い青の長衣を着て、バルコニーから空を見上げていた。
彼はその傍らに立ち、その光景を少し不思議そうに眺めながらも、特に大きな感情を表に出すことはなかった。
エレはあの時、彼を見て笑いながら言った。
「きれいでしょ?」
彼はただ淡々と答えた。
「……まあまあかな。」
今になって、彼女がそのことを口にし、彼は初めてこの物の名称を知らなかった自分に気づいた。
「つまり……これ、王国では『花火』と呼ばれておったのだな?」
サイラスは小さくつぶやき、確認するように言った。
エレは微笑みながらうなずいた。
「そうよ。」
しかし、サイラスの思考は徐々により深いところへ沈んでいった。
——人々がこの物を祭りの娯楽として扱っている一方で、ラファエットはそれを殺戮の武器へと変えていた。
この事実が、サイラスにひとつの真理を突きつけた。
——技術の発展は、それを発明した者ではなく、それを「握る者」によって決まるのだ。
彼は低くつぶやいた。
「……帝国は、まだこの物の本当の威力を知らない。」
エレはわずかに眉をひそめ、彼の語調の変化を敏感に察知した。
「つまり……この焔筒と、あなたがラファエットのところで見た武器は、同じ原理なの?」
「原理のみではない。」
サイラスの声は低く、焔筒の残骸を鋭い目で見つめながら言った。
「これはまったく同じ物質だ。ただ、帝国の人間たちはまだ、それが軍事に応用できるとは気づいていないだけだ。」
ヴェロニカはずっと様子を見ていたが、ここでようやく口を開いた。
「……いったい何の話をしておる?」
サイラスは顔を向け、まっすぐにヴェロニカを見据え、先ほどまでの軽い調子ではなく、どこか試すような口ぶりで言った。
「君は知ってるだろ?雷鳴砂が、焔筒以外に、どう使えるかってこと。」
ヴェロニカはわずかに動揺したようだった。
彼が突然そんな質問をするとは思っていなかったのだろう。
だがすぐに冷静を取り戻し、考えを巡らせた後、淡々と答えた。
「娯楽用途以外なら……鉱石の採掘に使われることがあるかと。」
エレは小さく息を呑み、目にわずかな変化が浮かんだ。
「鉱石の採掘に使うって……?」
サイラスは低く繰り返し、唇の端に声のない冷笑を浮かべた。
——焔筒、鉱石の採掘、火縄銃……これらの手がかりがついに繋がった。
もし雷鳴砂がすでに鉱業で一定の用途を持っているのなら、つまり帝国内部の誰かが、その破壊性にうっすらと気付き始めているということだ。ただ、それがまだ軍事方面には応用されていないだけ。
この技術の差は、いずれ戦場で明確な形となって現れるだろう。
言い換えれば——
「この国には、あとは“発見者”が現れるだけだ。」
サイラスは手にした竹筒を握りしめ、指先で焦げた竹の表面をなぞりながら、鋭い目で何かを心の中で再確認するように見つめていた。
ヴェロニカはその表情の変化に気付き、わずかに眉をひそめたが、何も聞かず、ただ淡々と口を開いた。
「行きましょう。ここにはもう見るものはない。」
サイラスはしばし沈黙したあと、手の竹筒を無造作に地面へと投げ捨てた。
「……ああ。」
エレは最後にもう一度、あの子供たちを見た。
見知らぬ人たちの出現に遊ぶのをやめた子供たちのうち、数人はまだこの明らかに身分の高い訪問者たちをこっそりと見つめていた。
彼女は何も言わず、ただ黙ってサイラスとヴェロニカの後に続いた。
だが、三人が再び大通りに戻ったとき、サイラスが突然口を開いた。
「帝国の軍事区画に行く。」
ヴェロニカは驚いたように少し目を見開き、彼の方に顔を向けて問いかけた。
「赤獅堡に? 何のつもり?」
エレもわずかに眉をひそめ、静かに尋ねた。
「街を見て回るんじゃなかったの?」
サイラスはエレの方へと向き直り、少し申し訳なさそうに言った。
「悪いけど、街の散策はここまでだ。」
エレは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに小さくため息をつき、責めることなく理解したように頷いた。
「……あなたにはあなたの考えがあるのね。わかってる。」
ヴェロニカは彼の突然の方針転換をまだ理解しきれていないようだったが、拒否はせず、淡々とした口調で言った。
「……行けるけど、何をしに行くつもり?」
サイラスの目は静かに澄み、口調は一切の迷いなく答えた。
「武器を製造している工房を見たい。」
ヴェロニカはその言葉に少し眉をひそめた。
「……武器製造? 帝国の軍備に興味でも?」
エレも横目で彼を見た。
彼がかつて軍事訓練を受けていたことは知っているが、政治や軍政にはあまり関心を示していなかった。
それなのに今、自ら兵器工房を視察したいと言い出すのは意外だった。
だが、彼女にはうっすらとわかっていた。
サイラスはすでにラファエットの武器に秘められた秘密に気づいている——
彼の関心は単なる「武備」ではなく、ある決定的な手がかりを心の中で組み立てており、それを確かめたいという強い衝動から来ているのだ。
「ただ、確認したいことがあるだけだ。」
サイラスの声は変わらず落ち着いていたが、その視線は鋭くヴェロニカを射抜いた。
「導いてくれ。」
ヴェロニカはしばし沈黙し、何かを秤にかけているようだったが、やがて小さくため息をついた。
「……よかろう。そこまで言うなら、参ろう。」
エレはサイラスの横顔を見つめ、そっと眉を寄せた。
胸の奥に、拭いきれない不安が静かに湧き上がっていた。
——今回の赤獅堡訪問は、単なる視察ではない。
きっと、これからの戦局に影響を与える、決定的な一歩になる。




