(10) 隠された言葉
狩り場の風が木々の梢を撫で、落ち葉が微風に舞う。
金色の朝陽が差し込み、木洩れ日が揺らめく中——
エドリックはそっと手綱を引き、馬を進める。
サイラスの横へ並ぶと、わずかに口角を上げた。
「何を考えている?」
サイラスは視線を戻し、淡々とした口調で答える。
「別に。ただ、今日の獲物が殿下を満足させるには足りるかどうかを考えていただけだ。」
エドリックは小さく笑う。
「狩りに、満足なんてないさ。」
軽やかな声色。
「獲物はいくらでもいる。もっと大きな獲物もな。」
そう言うや否や、エドリックは弓を引き絞った。
次の瞬間——
ヒュッ
矢が空を裂き、一直線に飛ぶ。
遠くで逃げかけた鹿の首を正確に貫いた。
鹿はその場で数度もがき、やがて力なく倒れる。
獲物の命が尽きたのを確認するように、猟犬が駆け寄った。
サイラスはゆっくりと目を瞬く。
——狩りに、満足なんてあるのか?
唇の端が、わずかに持ち上がる。
その言葉の意味するものは……本当に狩りだけだろうか?
「……いつから、そんなに感慨深くなった?」
サイラスは馬の手綱を軽く指で弾きながら、何気なく問いかけた。
エドリックはすぐには答えなかった。
代わりに、手を軽く挙げて猟場の護衛たちに獲物の処理を指示する。
そして、ゆっくりとサイラスへ視線を戻した。
「サイラス。」
ふと、静かに呼びかける。
まるで旧友を晩餐へ招待するかのような、穏やかすぎる声音で。
「機会があれば、帝都の宴に顔を出せよ。」
サイラスは手綱を持つ指をわずかに止めた。
だが、すぐに緩やかに微笑み、気だるげな口調で応じる。
「俺の立場で帝都に行くなんて、余計な厄介事を増やすだけだ。」
「……本気で、このままブレストの"お気楽な坊ちゃん"でいるつもりか?」
エドリックはそう言いながら、サイラスをじっと見つめる。
その眼差しは、冗談めかしたものではない。
サイラスは肩をすくめると、気にした様子もなく手綱を軽く回した。
「なぜ駄目なんだ? 俺には、こういう生活が向いてるさ。」
エドリックは低く笑う。
さも、予想通りだと言わんばかりに。
そして、ふと顔を上げる。
朝日を浴びた木々を見上げながら、ぼそりと呟いた。
「……もし、エレノアがまだ生きていたら——」
サイラスの指が、ほんのわずかに動く。
「今、頼れる人間はそう多くないだろうな。」
彼はゆっくりと視線を上げた。
エドリックの赤い瞳が、陽光を映して揺らめく。
ルビーのように燃え、そこに秘められた感情は——
容易には読み取れなかった。
サイラスは答えなかった。
わずかに顔を背け、朝陽に照らされた森を見やる。
——今の言葉は、何気ない独り言か? それとも探りか?
エドリックがどこまで知っているのか、
何を意図しているのか、
それは、まだ分からない。
だが、少なくとも今は——答える必要はない。
サイラスは静かに馬を進めた。
胸中の思惑を、
琥珀色の瞳の奥深くへと沈めながら。




