Act.0 プロローグ
―プロローグ―
その日は雨だった――。
激しく地面に打ち付けられる雨粒、そしてその雨粒の音。
「ふえぇぇぇん……うっ、ぐすっ……うえぇぇん……」
そしてそんな雨の中、一人の少女が地面にへたり込むように座り込んで、泣いていた。
少女の歳は12歳か13歳と言ったところか……。年齢的に見て、迷子ではなさそうだ。
少女の茶色の長い髪が、雨で濡れそぼって少女の体に纏わりついている。
降りしきる雨の中、少女はただ泣きじゃくるだけだった。
「どうしたんだい?」
すると不意に、とある男性が少女に声をかけた。
男の年齢は30歳前半といったところ。男は手に持っていた傘を少女の上にかざし、着ていた上着を少女に着せた。
「迷子になっちゃったのか?」
男がそう聞くと、少女はふるふると左右に首を振って否定の意思を告げる。
そしてその後、少女は言葉を続けた。
「ぐすっ……家が……家が無くなっちゃったの……」
「家がない……?」
男は驚いた顔で少女を見た。
「家族の人はどうしたのかな?」
「みんな事故で死んじゃったの……ふえぇぇぇ……ぐすっ……」
暫く落ち着いていた少女だったが、またもや泣き始めてしまった。
男は少女を暫く見つめた後、少女の頭を撫でてやった。
「ここにいたら風邪ひくから、こっちに来なよ」
そう言って男は少女と共に、一台の車の元へと歩み寄った。
すると少女は、その車を見てポツリと、
「34R……?」
そう呟いた。
確かに少女の言うとおり、男と少女の目の前には、青色のBNR34 GT-Rの姿があった。
「おっ、車が好きなのか。なら、ちょっと待って」
そう言って男は34Rに乗り込んで、34Rを眠りから呼び起こした。
その瞬間――辺りに34Rのエンジンサウンドが反響した。
男がアクセルペダルを踏むと同時に、それに呼応する34R。
「さぁ乗って」
男が34Rの車内から少女にそう言うと、少女は首を縦に振って34Rへと乗り込む。
少女が赤色のフルバケットシートに身を収めた後、34Rはゆっくりと動き出した。
「どこに行くの……?」
「君の新しい家さ」
少女の問いに男はそう答えた。
――この出来事から既に、ひっそりと物語は始まっていた。そしてこの5年後、遂に物語は大きく動き出す事となる。
この物語の舞台は真夜中の首都高。車と走りに情熱を注ぐ、首都高ランナーたちの物語がいま始まる――。
―WARNING!―
本作品は実在とする場所をモデルとしていますが、本作品の架空空間であり、完全なるフィクションです。
また、登場する人物名や地名、及び団体名称も、ほぼ架空の物であり、実在の物とは一切関係はありません。
実車では、本作品と同様の操作の真似をしないで下さい。
公道では法廷速度や交通ルールを順守し、安全運転を行うように心がけて下さい。