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第二話 私という存在

今作はフィクションであり、実在の団体、地名には関係ありません。

人王暦十年、あれから、私達は山奥の小屋で生活を続けていた。

彼女と知り合ってから八年が経過した。当時六歳だった彼女も一四歳となり、成り行きで魔法を教えた結果、意外にも魔法に適合し魔法使いの見習いとなっていた。

 「ねえ。マナ」

 「何?」

ユイは私に気怠そうに不満をぶつけてきた。

 「いつになったら、炎以外の魔法を教えてくれるの?」

 何度も聞いた不満だった。ここ最近の私の悩みだ。この子はいつになったら戦うという選択肢をなくしてくれるのだろうか。教えたの私だけど。

 「通常魔法なら教えたでしょ」

 「防御魔法しか教えてくれてない」

ばれた。戦ってほしくないから最低限しか教えてなかったんだけど。

 「別に戦う事が魔法の全てじゃないし」

 「じゃあ、マナが使える通常魔法全部言って」

 無茶なことを言われたが、怒ってる様が可愛いので乗ることにした。

 「防御魔法、攻撃魔法、束縛魔法、洗脳魔法、幻惑魔法」

 「いや、後半物騒なんだけど。今までそんな魔法使ってたっけ?」

 「防御、攻撃以外は使ったことないよ。私は人を弄んだりしないし」

 私の少しイラついた言葉に彼女はハッとして謝罪した。

 「ごめん。わざとじゃなくて」

 「わかってるよ。今度、炎以外の魔法も教えるから」

 「ほんと!やったー!」

彼女はとても嬉しいらしく、飛び上がって喜んでいた。

「人魔七大魔法だっけ?炎、水、風、雷と」

「土、光、闇」

「そ、そうそれ!」

彼女の言葉に補足をすると彼女はとても楽しそうにしていた。魔法を純粋にここまで楽しめる才能がうらやましいと思った。

「ふふ。じゃあ」

彼女に魔法の特訓をするよう呼び掛けた瞬間だった。ドンという音とともに勢いよく小屋の扉が開けられる。黒い影が私達に近づく。私は、彼女を奥に誘導して目の前の影に警戒した。私たちは扉の前にいる人を凝視する。そこにいたのは、

「二人とも大変だ!」

「村長⁉」

意外なことに現れたのはあの時「下山するな」なんて言っていたあの村長だった。

彼を見たユイは憤慨した様子で糾弾した。

「何でここに来たんですか。私を捨てた貴方が‼」

「それに関しては本当にすまない。だが、今はそれどころではないんだ」

「はあ?」

「何があった?」

気になって質問した。見た所かなり慌てている様子のようだ。殺しに来た感じではない。

「マナ君。申し訳ない」

「一体何が?」

彼は唾を飲みこみ、私達の方を流し見しながら恐る恐る口を開いた。

「連合国の魔法騎士が来たんだ」

「えっ」

連合国の魔法騎士。それは、連合国建国時に設立された魔物殲滅のための部隊。かつて存在したイステリア王国の兵士部隊を前身として魔法戦闘に特化させた組織であり、今まで数々の魔物たちが殺し尽くされてきた。

そんな危険な存在がなぜここに来たのか。そう考えていると隣のユイは村長に激昂した様子で問い詰めていた。

「なんで、ここにいれば魔物狩りは呼ばないんじゃなかったの⁉」

「呼んでいない!」

「は⁉呼んでいない?そんなわけ」

どうやら村の人々はだれも魔法騎士を呼んでいないらしい。それなら、どうやって奴らは私がここにいることを知った?

「状況がよくわからないんだけど、結局私は何をすればいいの?」

「……彼らに会ってほしい」

「あんた何言ってんの?会ったら、殺されるにきまってるじゃない」

「彼らは殺す気はないと言ってた」

「そんなの……」

そんなことは言うだけ無駄だ。殺すときに「気が変わった」といえば済む問題だ。だが、もし奴らが過激的だったら。魔物とその弟子を殺すと言ったら。そんな可能性があるなら、私は、

「………わかった。行ってくる」

「ありがとう」

「マナ‼」

彼女は私に初めて敵意をあらわにした。わかってる。そりゃ嫌だよ。大好きな人が離れるのは。だけど、貴方が傷付かないためだから。

「無意味だよ。ユイ。貴方には炎と防御しか教えてない。私を拘束できない」

「くっ」

彼女に近づき頭をなでる。突然の私の行動に驚いた彼女をなだめる。

「大丈夫。すぐ帰ってくるから」

彼女はしばらく沈黙したが、落ち着いた表情で私に応えた。

「帰ってこなかったら、許さない」

「うん。わかった」

私は彼女たちに背を向けて、山の下の集落に下り始めた。


「来たか」

集落に来た私を奴らは待ち伏せしていた。全身を黒い外套で隠し浮き出た顔はニヤニヤと笑っている。その下劣な姿を見て私は安堵した。長年狩り続けた経験から滲み出る慢心の表情。私という女を殺す快感を想像している下衆の顔。彼女に見せなくてよかった。こいつらみたいな人間の汚い部分も。私みたいな

「こんな姿、あの子には見せられないからね」

魔物の汚らわしい部分も。

無属性貫弾(ノーン・ショット)

約十人ほどが一斉に私に向けて撃ってきた。やはり最初から殺す気だったらしい。

「ふふ、ふふふ」

白濁色の光が前方向をふさぐ。直撃の瞬間、私は--------

狂気の表情を浮かべる。奴らは驚き顔を歪める。瞬間、私は杖を構えて光めがけて解き放った。

風圧の烈撃(エアロ・ブラスト)

「なに⁉」

【風圧の烈撃】。風属性中級攻撃魔法で魔法で風を創造、操作し広範囲の物体を吹き飛ばす広範囲攻撃だ。殺傷能力はほぼなく、あくまで迎撃のための技だ。

解き放たれた風に光弾はあっけなく弾き飛ばされ奴らは恐怖し萎縮する。初撃で屠れると確信していたのだろう。私が風魔法で吹き飛ばすなんて想像もしなかったようだ。

驚いた彼らはもはや部隊ですらなかった。自信を喪失し、陣形はぐちゃぐちゃになり中にはうずくまり泣き出すものまでいた。これではもはや勝負にすらならない。

戦闘は終了した。もう敵意は感じなかった。魂の抜けた状態の彼らに念のため質問した。

「一つ聞きたいんだけどいいかな?」

「ひっひいい。来るな!バケモノ!」

思った以上に恐怖を植え付けてしまったらしい。会話もままならない。どうすべきかと悩んだその時、

「代わりに僕が答えましょう」

一人の青年が話しかけてきた。

青年は青い髪に同色のローブを白の一張羅の上に羽織っていた。明らかに彼らとは雰囲気が違う。確実に先ほどの彼らより手練れだ。

「誰?」

「僕はランス。ウェスターンの上級魔法使いだ」

「上級魔法使い⁉」

人間の魔法使いには三つの階級が制定されている。初級魔法使い、中級魔法使い、上級魔法使いだ。階級は魔法の練度で決まるらしい。

つまり、目の前のこの男はこの国有数の戦力という事だ。

何でそんな人間が私なんかを殺しに来たのか?

「勘違いしてそうだから言っておくけど、僕は君を殺すつもりはないよ」

「何?」

「殺す必要がない。前の彼らが先走っただけだから」

殺す気がない。殺さない。殺す価値がない。

ふざけるな。今まで私以外は散々殺しておいて私は殺さないだと…?

「私には殺す価値すらないと…?」

「違う。そういう意味で言ったわけじゃ」

アイツが何か言ってる。だけどもうどうでもいい。私はただ

「ぶち殺す」

コイツを殺せばいいのだから--------

 

 私は杖を構え上空の空に体を留めた。これは、魔法使いの基本的な戦闘態勢だ。それに気が付いた奴も私と同じ態勢をとった。どうやら、奴は私に付き合ってくれるらしい。

「風圧の烈撃!」

「激流の防壁ストリーム・ウォール

 私が放った風の塊を奴の水の壁が相殺した。それは予想外の光景だった。確かに本来殺傷能力が低い魔法を攻撃に使ったところは愚策だった。しかし、奴は水魔法を使った。人魔七大魔法で最弱の水魔法を。その行為が私の神経を逆撫でした。

「最弱で十分ってことか⁉」

 この男を殺して証明してみせる。私だって他の同胞みんなと同じ殺す価値のある魔物だって事を!

「泥土の貫弾クレイ・ショット!」

 泥の塊を高速で撃ち出す攻撃特化の土属性中級魔法【泥水の貫弾】。しかし、私が放った五発の魔法弾は奴に水の壁に衝突し無残にも消え去った。

 水と土では相性が悪いらしい。私が使える属性魔法は炎、風、土だ。しかし、その三つ全てが奴の壁を突破できない。このままでは私が負ける。なら、賭けに出るしかない。

「話を聞いてくれ。僕は君を保護したいと思っただけだ」

彼は私の攻撃をいとも簡単に防ぎながら、話し始めた。

「頼む。君が協力してくれれば魔物と人間の共存だって…」

 奴が何か話を続けていたが、私はそれを聞いていなかった。

彼の言葉を無視し、私は魔法攻撃を撃ち続ける。奴はどうにか言葉で解決したかったようだが、私にその意思はなかった。今の私は殺し合いにしか興味がない。

「無駄だよ」

魔法攻撃で何度壁を崩しても即座に再生させてくる。あれは恐らく上級魔法。中級魔法でどうにかできるわけがない。方法があるとすれば、壁を一度で完全に破壊させる高出力の魔法攻撃しかない。それを撃つには奴の動揺を誘うために虚を突く必要がある。

「悪いけどもう時間がないんだ。力ずくで捕まえさせてもらうよ」

「……来る!」

溶液拘束魔法ゲルナイズ・キャプティベイト!」

奴が放った魔法は粘液のようにドロドロした水の塊を放つものだった。あっという間に私に追いつき全身を拘束した。

時間がない。その言葉を聞いて私は安心した。私より明らかに格上の奴が時間に気にする理由なんて一つしか思いつかなかった。魔力切れだ。上級魔法は当然だが消費魔力が多い。ここまでの長時間その壁を展開し続けたんだから、魔力が枯渇するのは当たり前。だから手っ取り早く私を捕まえる魔法を使ってくる。予想した通りだ。この時を待っていた。

「これは…⁉」

奴は捕まえたモノに驚愕し、狼狽えた。奴が捕まえたモノは私じゃない。

「土でできた人形…⁉」

「土属性初級魔法泥人形(マッドゴーレム)

この魔法は戦闘どころか生活ですら一切使わない子供を楽しませるくらいしか芸がない魔法だ。それこそ、魔法使いが最初に魔法を使えるか試すぐらいでしか使わない。そんな何の変哲もない人形で奴をだますことに成功した。

どうやって奴をだましたのか。方法は単純だ。奴の水が私に接触する直前で下の地面まで急降下する。その後、私の代わりに人形を上に投げ飛ばし直撃したように見せた。強い水は光を歪めすぐには捕まえたのが人形だとは気付かない。その隙でお前を殺す。

闇黒の貫砲(ダークネス・バスター)!」

「しまった!ぐっ」

黒い光は水の壁に阻まれる。だが、

「何?」

使用者の魔力の不足かそれとも単に水のない山だったからか。壁に少しずつ亀裂が生じ、それは全体に波紋し完全に崩壊した。その黒い光が彼に到達し致命傷を与えるまで数秒もかかんなかった。

「やった!やった!」

直撃した後、爆風で奴がどうなったかは分からなかったが私はとても高揚していた。

私にも人を殺せる。私も同胞みんなと同じ人を脅かす魔物なんだ!

なんでこんなことしたんだろう?私はただあの子を巻き込みたくなかっただけなのに。

「何の為にこんなこと…」

「ようやく落ち着いてくれた」

「え?」

そこには彼がいた。私が撃ち殺したはずの彼が。服は少し破れ、青いローブはなくなっていたけど。

「何で…死んだはず…」

「僕のローブには、反射魔法が編み込まれているんだ。ギリギリ間に合ってよかったよ。直撃だったら死んでいたからね。」

「そんな…」

「さあ、話を続けよう」

私が絶望してる姿を無視して彼は話し続けた。

「君は少し特殊なんだよ。それが戦ってよくわかった」

「特殊?」

言っている意味が分からなかった。特殊って一体何と比べて特殊なんだろう?

そう思っていると彼が話を続けた。

「かつて僕の国には百人以上の闇魔法使いが国を墜としに来たことがあってね」

「百人⁉」

闇魔法使いが百人も一つの目標を目指すなんて聞いたことがない。私の集落ではせいぜい十~十五人程度しかいなかった。

「他の闇魔法使いと比べても君の戦い方は少し特殊過ぎる。格上相手に初級魔法を使うなんて聞いたことがないよ。」

「それは、私が戦闘経験ないからだと思います。」

「でも、君の戦い方はよかったよ。魔王がいた頃に君がいなくて本当に良かった」

「魔王がいた頃?」

彼は見た目からして二十歳ぐらいのはず。魔王が倒されたのは十年前。戦っていたのか?

「じゃ、本題に入ろう。僕の目的は魔物と人間の共存だ。そのために君が必要なんだよ」

「魔物と人間の…?」

そんなこと可能なのだろうか?かつて殺し合った関係の相手と仲良くするなんて?

そう考えたとき自分が今まで行ったことについて振り返りそして戦慄した。

「え?それって…まさか⁉」

「そうだ。君とあの子が行っていたことをこの国中で行うだけだ」

「じゃあ、つまり私は…!」

自分のやってきたことの重大さにようやく私は気付いた。そして彼は真実を告げた。

「つまり、君は世界で初めて人間との共存を選択した唯一の魔物なんだ。頼む。君の住みやすい世の中にしたいんだ。僕に協力してくれ!」

ねえ教えて。私今どんな顔してるの?

私は彼の言葉に立ち尽くすことしかできなかった。


こんにちは。レインです。

見てくれてありがとうございます。

これからも定期的に投稿していきます。

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